「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2005年5月 定例会の報告
車いす使用者の自動車移動時と褥創(じょくそう)のリスク管理

講師:藤井 直人氏
神奈川県総合リハビリテーションセンター
研究部 リハ工学研究室長
日時:2005年5月12日
講師略歴
昭和47年早稲田大学理工学部卒業、昭和48年神奈川県総合リハビリテーションセンター勤務。高齢者・障害者の交通手段の研究、褥創(じょくそう)予防の研究、福祉機器関連研究開発に取り組み、移乗介護機「マイリフティ」等を商品化。
現在、県委託事業の福祉機器評価モニター事業に取り組んでいる。
著書
『高齢社会の技術5福祉機器』 『上手に使おう!移乗関連器具』 翻訳『褥創』他

藤井様のご挨拶

ご紹介いただきました藤井です。
もっと優しい旅への勉強会定例会でお話しをと声を掛けていただいた時、どのような話がいいのかと考えました。テーマはお任せしますとのことでしたので、今日のテーマを選んでみました。
皆さんのお考えに合い、参考になるかどうか心配ですが宜しくお願いします。

私どものリハビリテーションセンターは交通事故などの脊髄損傷の方のリハビリテーションを対象として始まりました。最近は脊髄損傷から高次機能障害、事故で頭を打ちなんらかの損傷を受けられ、手足など外見損傷はないが高次脳障害、意識障害などのリハビリテーションに移りつつあります。脊髄損傷者をメインに行ってきましたので、これらを中心にお話しさせていただきます。

自己紹介を兼ねてパワーポイントによる資料を作りました。この資料に沿ってお話しさせていただきます。

リハビリテーション工学とは?

リハビリテーション工学は皆さんにとってあまり耳慣れないと思います。医学的にどう処置しても手や足をつけたり再生したりすることは現在ではまだ出来ませんので、義手、義足に工学技術を使おうとしたのが始まりでした。
アメリカ合衆国では第二次大戦後、多くの傷痍軍人が生れました。アメリカでは正義の戦いに征って、怪我をして障害を持って帰ってきた人々に対して、科学技術の全勢力を傾けて救わなければいけないと戦後すぐに国中の人々が立ち上がりました。
日本では戦争を起こし戦場へ征き怪我を負って帰ってきた傷痍軍人は、正義の戦いの犠牲者とは見られなかったという大きな違いがあります。

そこで生まれたのがリハビリテーション工学です。リハビリテーション過程で工学技術を使っていこうとしたのがルーツです。現在はリハビリテーション工学にリハビリテーション・エンジニアリングの観点から、むしろ生活全般で障害を持った方が、ハンディキャップなしで社会参加していくことに工学技術を使おうと広がりました。

リハビリテーション・エンジニアリングは、アシスティブ・テクノロジー(生活支援工学)に向かっており、範囲が広がっています。私自身の研究から言うと、ベッドから車イスへの移乗(Transfer)する、例えば180cm以上身長のある頚髄損傷の方の場合、奥さんがひとりではとても移乗できません。
移乗のための機器を開発依頼があり、彼の協力をもらい、教えてもらい、叱咤激励されながら開発した移乗器があります。その延長線上で、移乗された方がどうなったかと調査に行ったところ、以外にお風呂に入れていないことがわかりましたので、お風呂入浴装置機器などの開発もしています。
又オフィスチェアがありますが、片麻痺の方でも、オフィスで動き回るときに、電動車イスよりもオフィスに似合ったデザインで移動できるとよいではないかとして開発したものもあります。

交通機関に関する取り組みについて

なぜ私が交通に関わってきたかについてお話しします。
神奈川県でバブルがはじける以前に、障害を持った方が社会参加する際、システムとして支援していったら良いかということで、路線バス会社やバスのメーカーなどと協力してリフト付バスを開発もしています。
もうひとつは個別に乗用車がありました。助手席が回転して外に出て乗り降りしやすい車両について、オーテック社と共同研究しました。平成3年当初オーテック社から、こんな回転座席の車が売れるのかと質問された程特殊な装置でした。現在では福祉車両というと、この回転座席のついている車が代名詞となっている程です。
都立大学の秋山先生、三星先生と研究を進めました。その際に交通分野に入り込むチャンスがありました。秋山先生方の場合は、交通というと土木工学で都市計画など大きな観点からの障害者、高齢者の移動を見ており、その中に私が入り込み、何をしたらよいかと考えたのが始まりでした。その後、後半は移送する際の車イスとバスなどといったインターフェイス部分に活躍する所があるのではないかと考えました。

1990年に発表したEUの定義した移動制約による、公共交通の使いにくい人とはどのような人たちなのだろうか、どの位いるのかと推定した数字があります。車いす使用者と視覚障害者は、人口比で約2.9%、高齢者が14.8%、子供が7.1%、妊婦が2.1%、合計約25%いるだろうと推定されました。
われわれも一時的移動制約者になりますが、荷物や旅行カバンを持ったり、買い物カートや、子供を背負ったり、乳母車を持った人が15%いるだろうと推定されます。
両方を合わせると30%から40%となります。30~40%あると仮定すると、今の公共交通機関は30%~40%の人が使えない状況と考えることができ、事業として成り立たないことになります。ですから事業者は、法律で規制されているからやるというのではなく、自分達の事業を考えると、当然乗りやすくしないと事業を継続してゆけないという数字です。

イギリスの最近の統計によると、国民6,000万人の約20%の人々に何らかの障害があるといわれています。障害者手当てを支給されているのは300万人です。日本の場合、人口12,000万人で、障害者手帳を持っている方は約370万人です。370万人の60%は65歳以上の高齢者です。介護保険の要介護と認定された人は300万人強です。障害者が半分としても要介護であって、手帳持っている人を全部含めると420万人程ではないかと考えます。この様に考えるとイギリスの300万人がいかに多いかがわかります。移動制約者が全体の20%いるということです。1990年のEUが出した移動制約者25%は誇張した数字ではないことがわかります。

日本でも近年低床バスが出てきましたが、ドイツでは1989年開発を始め、1990年から運行を開始しています。ひとつにはアクセシブルにすることがありますが、それよりも地球環境問題に対する国民の意識が高く、乗用車利用者をいかに公共交通機関へシフトしてゆくか、その際に強制的にシフトするのではなく、自分達が車を置いて公共交通の方が便利で快適だと思わせるように道具として作った考え方も入っています。ですからドイツでは別段、高齢者、障害者だけをメインとして実施したのではなく、環境問題もひとつの柱として実施されたと聞いています。

スウェーデンのバス停スウェーデンのバス停の例ですが、写真のバスは一般バスの1.5倍から2倍の長さの連結バスです。その長いバスがバス停の縁にすれすれに接近して停車します。日本の低床バスであっても接触するほど近くに停車はしないと思います。通常バス停はバスベイ方式で引っ込んでいるのですが、スウェーデンでは逆にプラットホームのように道路に台形の形で出っ張っています。ですからバスはすんなりとぎりぎりまで接近して停車できるのです。停車している間、他の車は道をふさがれた形になり、バスの後ろでバスが走り出すのを待っていなければなりません。

また、このバスには乗降口ドアが4つあり、停車すると一斉に開きいっぺんに乗降するのです。ドアと停留所は間がほとんどあいていないので乳母車なども乗り降りがスムーズに行えます。若い車いす使用者はためらいもなく乗り降りできます。そのくらい接近して停車します。乗り降りが早いのはそれだけでなく、運賃支払方法の違いがあります。乗車時にタイムカードを押すだけで、日本のバスカードのように降りるときに機械を通すことなどしません。結果バス亭にバスが止まっている時間が短くなります。単に低床だけでなく、バス停、乗り降りの方法などすべてが大切な要因であるのです。

交通バリアフリー法について

日本の交通バリアフリー法は二本立てです。新しく建てる駅舎、新しく購入する車両に対する義務付け、違反した場合は罰金を科せられます。この交通バリアフリー法は日本で始めての強制力のある法律と言われます。バスに限っていいますと、バスは都会では新品を購入し12年程でローテーション(交換)します。法律は2000年に施行されたので、来年2006年には約半分が低床バスになっているはずです。横浜市営交通では事実2006年には50%を越すと言われています。しかし、残念なことに東京で使ったバスが地方にまわってゆくので、日本ではバスを約25~30年程使用しますので、日本全国ベースで考えるとバリアフリーのバスになるには相当時間がかかることになります。
もうひとつは、重点地区、1日昇降客が5,000人以上の駅では、駅を中心として約500m範囲の中にある公共施設に行く道路については最低限1本、アクセシブルな道路、歩道2mの道路をつけなさいとあり、市町村が基本構想を作ることになっています。2010年までにその工事を終わらせなさいとされています。
2010年頃には、公共交通が使いやすくなり、周辺の施設に行くにもアクセシブルになっていると思います。このバリアフリー法によってかなり前進すると考えられています。

当初、日本では山坂が多いので低床バスは無理といわれましたが、以外に早く、1997年頃には国産の低床バスが開発されました。私たちエンジニアとして、本当に不可能かどうかを検証しなければいけないと痛感しています。

バス乗車について

次に低床バスに車イス利用者が乗車した時の話しをします。バスの急停車時に最高0.25Gがかかり、手動車イスにブレーキかけても5m位動いてしまいます。重い電動車イスでも1m程動くといわれています。このことは車イスで乗っている方も、他の乗客も危険であることになります。
そのことから固定装置を付けなければ安全ではありません。日本の場合、公営交通局の低床バスでは3本のベルトで固定することに統一しています。車イスの後ろは空間があるので簡単に装着できますが、前方は壁があるため装着しづらいです。日本では、乗降時に運転手さんが来てスロープを付け、なおかつ乗車後固定しなければなりません。どんなに早く作業しても1分以上要します。1分も待つことになると乗客は自然に冷たい視線になってきます(笑)。障害者の方に聞くと冷たい視線を背中に感じるとおっしゃいます(笑)。今の所それ程公共交通の充足率はありませんので、乗ってこないだろうと考えているのが現状です。

ヨーロッパ/イギリスの事例

ヨーロッパ、イギリスの例を話します。車イスの利用者は乗車後バスの進行方向逆向きに乗ります。車イスの背中部分に頭の上まで届く板があります。イギリスでは乗降口に自動的にスロープが出てきますので、車イス利用者はそのスロープを使って自分で乗り込み、くるっと後ろ向きになればそれでOKです。安全ベルトなど掛けません。運転手はずっと運転席に座ったままです。従って乗り降りに時間が掛かりません。

イギリスの低床バスにおける車いす固定安全性はというと、衝突などの場合、先程説明した板が車イスも人間も受け止めてくれます。片方が窓側の車輌ボディ、もう片方に支柱が立っており、この支柱は車イスの真横に来るようになる場所にあります。バスがカーブを切った時にこの支柱が転倒防止の役を果たすのです。他のヨーロッパの国で支柱のないバスがあり、カーブを切った時に車イスの人がバタンと倒れたのを目撃したことがありますが、イギリスではこの支柱で防止しています。
バスが低床タイプになり、アクセシブルになり、皆がスムーズに乗り降りできるバス停が整備されることにより、都市の公共交通がアクセシブルになるといえます。

公共交通のアクセシブル化を図っているイギリスであっても〝ドア ツゥ ドア〟のサービスがあります。『ダイアル・ア・ライド』と呼ばれている、電話でどこからどこまでと依頼して利用する車のシステムです。公共交通を利用できない方が利用しています。

2003年4月から1年間で1,325,388トリップの実績があります。ロンドンの人口は2001年度統計
で約700万人(神奈川県は約870万人)です。そのロンドンの有資格者は6万人と言われています。そのうちの24%は車イス利用者となっています。人口の約1~2%程度の人々はこのような
〝ドア トゥ ドア〟サービスが必要と言われています。
130万回という数値は膨大な回数で、例えば以前東京の世田谷でボランティアサービスの統計数字と比較すると約10倍です。運転手が約400人、車輌が約300台で700万人の大都市ロンドンで130万回ものオペレーションができてしまうシステムには考えさせられます。

 それ以外にロンドン・タクシーがアクセシブルです。ロンドン・タクシーを利用する時にタクシー利用券を利用するのですが、不正使用が多発した理由から、身分証明ができる写真入IDカードを使用しています。このロンドン・タクシーは1年間で90万回利用されています。

 『ダイアル・ア・ライド』の130万回の他にタクシー利用90万回あるということです。『ダイアル・ア・ライド』は日本で云う所の運輸省系の移送システムです。それ以外に通院サービスは、アンビュランスといい、救急車があります。この救急車は従来の緊急時救急車とは異なり、非緊急時患者移送サービスとしてあり、通院目的のために提供しています。イングランドのデータから規模をみますと、イングランド人口は4900万人で、1年間に1400万回使われています。ロンドン人口は700万人ですから、イングランドの1/7の規模です。1400回を7で割ると200万回となります。

すべてを加算すると、『ダイアル・ア・ライド』の130万回、タクシーの90万回、通院に200万回、年間合計420万回のサービスが提供されていることになります。公共交通が使えない方にも充足しています。勿論低床バスも運行されています。今後の日本でも同様のニーズがあるのだろうと考えます。

車いす搬送用スカラモビル サービスに従事する運転手さんサイドから見ると〝ドア トゥ ドア〟ではほとんどの場合階段があります。イギリスの通院サービスの場合、折りたたみ式軽量車イスがあり、段差など二人で運びます。スウェーデンの場合は、スカラモビルと呼ばれる装置があり義務付けされています。スカラモビルを車イスの後部にはめこみモーターで階段を昇り降りする装置です。螺旋階段でも使用可能です。運転手は運ぶのではなく操作します。スウェーデンの場合は従業員が腰痛になった時に雇用者側が従業員の腰痛の原因が業務ではないと証明しなければなりません。雇用者は労働環境については重い責任を課せられています。カナダでは体重が130kgを超える場合は2人で運んではいけないという基準ができています。

日本の介護タクシーについて

日本の介護タクシーについてお話しします。
介護保険制度は2000年4月にスタートしました。あるタクシー会社は同年6月に介護タクシー・サービスを開始しています。たった2ヵ月後です。厚生労働省は介護タクシーというサービスがあることを意識していませんでした。タクシー会社が独自に考えて生まれたのです。その方法は、自宅から、あるいはベッドからタクシーまでの身体介護、そしてタクシーをおりて病院までの移動の身体介護で、身体介護は最低30分です。運転手はヘルパーの資格を取り、身体介護部分から介護保険請求をしました。
最初は2,100円でした。現在は利用者が増えたため1,100円になっています。当初の2,100円時にはタクシー代金は取りませんでした。高齢者は1割負担ですから頻繁に利用しました。片道210円払えばとにかくタクシー代金なしに病院には行けたのです。開始された当初、国土交通省は何事だと苦言を呈していたのですが、利用者が急激に増えた為、身体介護は保険から支払われる部分をタクシー運賃とみなしましょうと後に軟化しました。ところが更に増加し、ボランティアの運転手さんの参入もあり、道交法の80条を規制緩和して、ある一定の研修を受ければこういった作業をボランティアでもやっていいことになりました。

日本の移動制約者の交通手段はどうなっているかといいますと、厚生労働省の資料を参考にお話しします。いわゆる福祉タクシーは大きく6つに分けています。
福祉タクシーといわれる部分が1594事業者で3276台といわれています。タクシー業者が運行しています。民間患者移送サービスはタクシー・サービスというよりはハイヤー・サービスに近いです。232事業者、432台あります。ユニバーサルデザイン・タクシーはタクシー会社が同じ基本料金で流しで走っており、車イスも後部ドアからリフトで乗れる車両を導入しています。これが44社、254台です。介護タクシーが595社で2554台あります。NPOボランティアのSTSが1440団体で約2500台が稼働しています。社会福祉協議会がやっているSTSが1034箇所で1522台あります。
ただしボランティアの運転手は普通運転1種免許で、タクシーは2種免許です。この部分がタクシー業界にとって、介護タクシーの部分にボランティアが多数入ってくることになり、かなり脅威に感じています。どう調整するかです。ロンドンで200万回の通院サービスがあります。その水準には介護タクシーはまだまだ遠い存在です。足りない部分、ボランティア育成をしてサービス量を増やそうとしているのが日本の現状と言えます。

ただし問題になってくるのが、リスクマネージメントです。アメリカの1991年からの5年間、道路上で車イス使用者の死傷に関連する統計があります。事故にあった車種としてワゴンなどのバンタイプが一番多いです。乗用車が30%、バスが12%、救急車が7%、トラックが3%になっています。 
事故の内容、原因行動として何であったかといいますと、車イス固定の不備又は固定していないことがトップで35%を占めています。アメリカは1990年にADA法(障害を持ったアメリカ人法)が施行されたことによって、車イス使用者などを差別してはいけないことになりました。バス事業者は路線運行しているバスを利用できない人の為に、バスと同等のサービスをバンタイプ車両でサービスの保障をしなさいと決められています。利用時の固定方法など厳しく決められています。決められた後の1991年から5年間であっても車イス固定をしていないのです。
日本も一番心配していることは、現時点ではレベルの高い運転手が行っているので大丈夫ですが、個別移送が増えた時にアメリカと同じ状況がでてくると予測しています。防ぐためには十分な教育が必要であると考えます。

アメリカの事故内容を見ると、固定装置の不備による怪我が大半を占め、半数以上の65%は車イスのまま乗れるバン型車両で事故を起こしています。いかに車いす固定の実施を周知徹底することが大変であるかがアメリカのデータからわかります。

安全ベルトが胸部を圧迫日本でも事故が報道されています。朝日新聞2003年6月3日の記事に、越谷市で軽乗用車運転手68歳が信号無視して時速約40k/hで交差点に入り、左から来た別の軽乗用車に衝突したとあります。運転手は軽傷でしたが、後部座席をはずしたスペースに車イスごと乗っていた男性70歳は死亡しました。腰ベルトが上にずれ胸を圧迫、肋骨が折れ、肋骨が心臓を破裂させたことが死因とされています。このような事故がこれまで何度か発生しています。
イギリスに車イス固定装置メーカーにアンウィンという会社があります。この会社の社長から衝突実験映像を頂きました。(ここで映像が映し出される)最初の映像は二点ベルトの腰ベルトだけの場合の動作が映し出されています。時速約48k/hの衝突時、大腿部上に胸部が落ちて激しく打ちつけているのがわかります。 先述の越谷市の事故では、車イスのアームレストが邪魔になり腰ベルトが腰部分ではなく、お腹の中間部分を固定していたと考えられています。衝撃で体がずれるとちょうどベルトが肋骨を圧迫する位置になります。結果的に肋骨骨折があり、折れた肋骨が心臓を圧迫したと考えられます。このベルト位置の問題は、アームレストがあるため、腰部分にベルトを掛けにくいのでアームレストの上を通してしまうという車イス自体の問題ともいえます。

3点ベルトを使用した場合、ある程度抑えられますが、緊張したベルトがばねの働きをして体を背もたれにリバウンドさせる問題点が発生します。頭がリバウンド時に後方に折れ曲がってしまうので車イスにも車と同様のヘッドレストが必要であることがわかります。これからオプションとして後で取り付けられるヘッドレストを作る計画ですが、車イスの種類が多過ぎるため、すべての車イスに装着させることができません。

ダミー人形の動き イギリスでは1995年に障害者差別禁止法が施行されました。このイギリスのロンドン・タクシーは、の2001年には車イスの人が乗れるような車種になっています。2010年までにイギリス全土にある約6万数千台全てのタクシーをアクセシブルにすると法律で規制されています。

このロンドン・タクシーでは車イスの人はタクシー乗車後、イギリスのバスと同様に後ろ向きに乗車します。理由のひとつは、衝撃を運転席との隔壁で受け止めようというのがあります。ベルトと車イス固定装置もあります。運転手に4点ベルトの締め方を教育することがいいのか、ロンドン・タクシーのように後ろ向きに乗車することがいいのか、意見の分かれる所です。後ろ向きに位置した場合の問題点は、多くの車イス使用者が車イスの後ろに荷物を持っていることがあり、かならずしも後ろ向き乗車がいつも安全とはいえません。荷物を降ろして乗車してもらえるのか、運行上の規約と運転手の対応によることになります。

前向きでベルトをしている場合はベルトが一種のばねの役目をするのでGは少なく減速されますが、後ろ向きは直接壁にもろにあたってしまいます。このことから、後ろ向き乗車がかならずしも安全ではありませんが、ちょっとした事故の場合は固定装置がないよりも、後ろ向き乗車が安全であるといえます。

日本の交通バリアフリー法は、バス等大きな交通機関については規制を受けていますが、タクシーなど小型車輌については適用されません。法律を施行5年後に見直すとしています。今年2005年がその見直しの年です。タクシーも始めからアクセシブルに作っておけば、ロンドン・タクシーのように一般の人も乗車できるし、車イスの方も使えることになることで効率よいと考えます。
車イスの方のために特化した車輌よりも、普段は普通にタクシーとして業務でき、運転手も生業に無理がないことが望ましいと思います。この場合も後ろ向きがいいのか前向きがいいのか議論の分かれる所です。

日産の場合はタクシーの運転手に4点固定がしっかり出来る教育する条件と、天井からヘッドレストが降りてくるもので対応するモデル・タクシーを作りました。2005年の見直しに強制力のある法律になって行くのか、業界の任意に任してゆくのかこれからの課題となります。

褥創(じょくそう)について

次は褥創(じょくそう)についてお話しします

チリ外務大臣とクリストファー・リーブ氏昨年10月、映画スーパーマンを演じたクリストファー・リーブ氏が亡くなりました。彼は頚髄損傷で首から下が不随となりました。脊髄を再生させてつなげようとクリストファー・リーブ財団を作り、医学会に研究依頼をし、将来自分は歩くと宣言していました。その時に歩けるように筋肉が硬直しないように入念にからだを手入れしていました。
しかし、何と彼は褥創で亡くなってしまったのです。日本では褥創になり、傷はつくりますが、褥創が基で亡くなることはまずありません。脊髄再生するという最先端医療の研究を推進していた人が褥創で亡くなったことに、褥創を研究している立場の我々にとっては大変ショックでした。

ROHOという画期的な発明品である褥創防止クッションがあります。これを発明したロバート氏に話しを伺ったところ、リーブ氏は精力的な人で休むことなく活動を続けていました。脊髄再生のために動き回っていたのです。受傷直後はROHOクッションを使っていたのだが、後には使っていなかったそうです。

褥創の傷の初期は本当に小さなものです。忙しく活動しているリーブ氏に、傷が治るまでベッドで休むようにと医療スタッフが指導したのですが、本人にとっては頚髄損傷のため知覚神経がなく痛くありませんし、動き回れるし、動き回らなければいけないからと、聞き入れなかったのです。

褥創はどうしてなるかといいますと、体の組織に加える圧力と加えた時間は反比例しています。高い圧力が集中してかかると短時間で褥創になります。低い圧力の場合には長時間でも褥創にならないことが動物実験でわかっています。
圧力をかけると血流が阻害されて酸素不足になることが局所的におきます。硬い所に座っていると硬い骨で支持するため、接点の面積が小さいことから局所に大きな圧力がかかることになります。ところが柔らかいクッションを下にひくと圧力が分散するので圧力が減少しますので、長く座っていても褥創になりにくいことから厚めのクッションをひくわけです。

褥創の予兆をどのように確認してゆくかですが、褥創にはI度からⅣ度の段階があります。第Ⅰ度は圧力を逃しても皮膚に赤く残る状況です。30分経過しても赤色がきえないのは、既に炎症がおきていることです。我々の出来る対応は、この状況になったらとりあえず除圧して赤い反応を消すことです。
また、この初期段階時、どうして赤くなったのかを考えることについて、皆さんに注意してもらいたいのです。例えば、昨日の朝は赤くなっていなかったが、次の朝見たら赤くなっていた。そこで、昨日一日何か変わったことがあったかを考えるのです。いつもは自動車に乗って1時間で到着するのに交通渋滞に巻き込まれてしまったため、2時間自動車に乗りっぱなしだった、とすると、それが原因と推測できます。探ってみると何かしら原因があるのです。そこで、次からは同じ状況を起さないように注意することがわかります。この信号を見て思い巡らすことが次のステップです。この積み重ねがあればクリアできます。その為にも症状の目印を利用してほしいと思います。

褥創(じょくそう)予防について

ロホクッションの適正な調整 学会に研究依頼をし、将来自分は歩くと宣言していました。その時に歩けるように筋肉が硬直しないように入念にからだを手入れしていました。

褥創予防のクッションが市販されています。圧力で計ると褥創になってしまう圧力は80mmHgが限界です。よく使われているクッション、〝ラテックス〟や〝ROHO〟など、多くの人がいいと推奨しているクッションはこの圧力範囲内にあることがわかります。

ROHOクッションをご覧になった方はいらっしゃいますか。ROHOクッションは空気セルと呼ばれる高さ10cm、直径5cmの袋が碁盤の目のように並んでいるものです。空気セル(袋)の下は前後左右のセル同士全て細いパイプでつながっています。つながっていることで、座った時に圧力の一番掛かっているセルは空気が減少し、押し出された空気は圧力のかかっていないセルへ移動します。ですから全体のセルが包み込むように臀部を支えることができるのです。空気が中に入りすぎていると十分に沈み込まないことになります。座った時、一番沈んだ臀部部分と下層部間に指2本分のスペースができる空気の量にするようにと使用書に明記されています。指2本分と言っても、実際の現場ではおしりと下のスペースを指で測るのは至難の業です(笑)。

旅行時に気をつけることは、地上で空気量を調整して、そのまま航空機に乗って上空に行くと機内の気圧は0.8気圧になるため、地上の1.25倍の空気量になってしまいます。空気セルがパンパンの状態になってしまいます。友人の例ですが、地上の調節のまま座席に敷いてアメリカへ10時間のフライトで到着した所、おしりが真っ赤になっており、滞在中ホテルのベッドで休んでいたそうです(笑)。 ROHOのようなシステムのクッションの場合は航空機で使用する場合はその点に気を配ってほしいと思います。    

旅客機乗客の健康危機(BBC NEWS)についてちょっとだけお話しします。

地上では平均血中酸素飽和度は97%ですが、飛行中では93%まで低下したと麻酔ジャーナル誌に報告されました。医師によっては入院患者の血中酸素飽和度が94%を下回ると酸素補給をしている。心臓と肺に問題のある人は、飛行する前に医師に相談する必要がありますが、健康な人には問題ないと伝えています。この研究リーダーである病院勤務の麻酔医Dr. Susan Humphreys は「このような酸素飽和度が下がることと脱水、動かないことと低湿度とが重なって飛行中と後の病気に影響していると考えている。」と語っている。

心臓、呼吸器系に問題のある人は十分に気をつけて下さい。(大きな拍手)

この後、出席者の自己紹介と質問などがありました。藤井先生ありがとうございました。

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