「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2005年2月 定例会の報告
水まわり設備・空間のUD配慮について

講師:TOTOユニバーサルデザイン研究所長 竜口隆三氏

1969年、東陶機器株式会社に入社。1994年より水まわり設備機器・福祉機器を中心としたバリアフリー化の研究・開発業務に従事し、商品企画部長、商品開発部長を経て、2002年4月よりUD研究所(ユニバーサルデザイン)を同社内に設立、初代所長に就任し、現在に至る。
UD責任者として、『UD評価のしくみづくり』『UD知識を有する人づくり』を推進し、『UD視点のモノ(新商品)づくり』のバックアップを積極的に展開中。
「国際ユニバーサルデザイン協議会」理事など外部の要職も務め、水まわり設備におけるバリアフリー、ユニバーサルデザインの分野で活動中。

ただいまご紹介いただきましたTOTOの竜口でございます、どうぞ宜しくおねがいします。
TOTOはトイレや水周り製品の会社とご理解いただいていることと思います。おそらく生活される上と、皆さま勉強会のテーマであります旅の旅先での水まわりの問題など、いろいろご意見をお持ちのことと思います。何でも言ってください。聞くだけ聞いて持ち帰ります(笑)。すべて対応できるかどうかは別にしまして、日頃から皆さんが思われていることを出していただきたいと思います。そのような覚悟で参りましたので是非お願いいたします。

本日のテーマですが、重岡さんからお話しを伺いまして、どのようなテーマにすれば良いのかと考えました。あまり面白くないテーマかもしれませんがTOTOが生まれた歴史から、どの様なことをTOTOが取り組んできたか、今現在ユニバーサルデザインとしてどのようなことをやっているかを前段でお話しします。
後半は障害をお持ちの方がパブリックトイレで困っていらっしゃいます。私どもでごく一部ですがパブリックトイレの日本のルールを作ろうと思いまして、視覚障害をお持ちの方、そして高齢化が進んでおりますので、お年寄りの視力の〝ぼやけ〟から、わかりやすいトイレづくりに取り組んでおります。
国全体で追い風が吹いておりまして、国土交通省、経済産業省などからもよい話だと言っていただきご協力をいただくようになりました。この前半と後半に分けましてお話しさせていただきます。

TOTOの概要と歴史

まず最初にTOTOの歴史とどのような会社なのかを簡単にお話しします。今から約百年前、1904年に日本陶器合名会社が設立されました。皆さんご存知かと思いますが現在のノリタケ・カンパニー・リミテッドですが、これがTOTOのスタートでした。名古屋を中心に営業活動しておりました商社森村組が、当時の日本の食器には粗悪品が多いということから、世界に名を響かせるような食器を作る会社を作ろうとして日本陶器という会社を創りました。今では世界の最高級と言われるノリタケ食器になったのです。創業以来食器をやってきましたが、その中で衛生陶器、便器とか洗面器などを次の時代へ残してゆかなければいけないと製陶研究所を創りました。製陶研究所を北九州小倉に作ろうとしたのですが、いっそのこと会社にしてしまえということで、東洋陶器株式会社としたのです。その当時日本では上下水道という概念が確立されていない時代に水洗トイレの開発に着手したのです。これは日本国民の生活価値の向上を目指してスタートしたのです。

初代社長から二代目社長に送られた書簡があり、その中に「良品の供給と需要家の満足」があります。お客様の満足を一番に考えていかなくてはいけないということが、私たちの会社の方針で、現在まで引き継がれております。現在はお客さまの満足をすべての原点にと考えて、TOTOにはサービス軸と商品軸、トータル3つの動きがあります。
お客様の満足を向上させるためにサービス面からリモデルクラブという、住宅の改修工事を受注される業者さん5千店以上のネットワークを組み、全国のお客様にそれらのお店を紹介させていただいております。現在全国に94ヶ所ショールームがありますが、業者さんとお客様が一緒にショールームに来て、見て、触っていただいて物選びをしていただいております。そして使っていただいた商品については365日24時間対応でメンテナンスをさせていただく体制です。使っていただいて安心ということです。
商品面ではエコロジー、環境に優しい商品、そしてユニバーサルデザインの取り組みと2つで取り組んでいます。

商品開発の歴史:1970年代~現在

これまでどのような動きをやってきたかといいますと、1970年代から特に車イスを使われる方が、どうすればトイレが使えるかの研究に着手し、現在まで続けてまいりました。1990年代に入り、高齢社会が間近に迫るということから、高齢者の研究に入りました。2001年から〝楽&楽計画〟としてユニバーサルデザインという道に踏み出しました。

簡単にどのような商品を作ってきたかをお話しします。1970年代、今から約40年前にバリアフリー便器を作りました。便器に座る場合、一般の方は壁を背にして座られますが、車イスを使われる方の15%程度の方は直進して壁に向って座られます。そのためには便器に方向性があっては駄目だとして方向性の無い、前後区別のない便器を開発しました。病院や施設でお年寄りや障害をお持ちの方にお風呂に入っていただくための特殊な浴槽を作った時代もありました。

1990年代に入り、いよいよ高齢社会でお年寄りがどうすればトイレに行けるのか、お風呂に入れるかを考え、電動式の立ち座りサポートするような商品、昇降便座を開発しました。
お風呂では、シャワーでいいですという方のために、車イスにのったままで浴びることのできる〝水まわり用車いす〟を開発しました。この水まわり用車いすは水まわり万能ですので、トイレに持って行き便器にセットし用足しができるようにしました。皆さんお分りだと思いますが、ウォシュレットを使う時、最近は便座に人が座らないとボタンを押しても水が出ません。水まわり用車いすは便座を立てたまま使用しますので水が出ないことになりますが、そこは水まわりのTOTOですので、車いすの背もたれから信号を発信して、便座に座っているという情報をウォシュレットに与えて洗浄できる工夫をしております。

ウォシュレットの開発

いよいよ最近のユニバーサルデザインになりますと、ご存知のウォシュレットがありますが、これは共用品推進機構さんからも日本を代表するユニバーサルデザイン商品と言っていただいております。どうしてこれがユニバーサルデザインかといいますと、ウォシュレットといいますのは実際は1965年にアメリカから輸入した商品です。当時はいい商品がありませんで、熱湯が出たり冷水が出たり、熱風が出たり冷風が出たり、日本人の好みにまったく合いませんでした。日本人の場合は奥様とご主人様のお尻を洗う温度が微妙に違う、温度調整も微妙に必要だなど、本格的に取り組み1980年に国産のウォシュレットを創りました。
そのウォシュレットが最初はどのような人の為に開発されたかと言いますと、ご自身でお尻を拭くことの困難な手の不自由な方でした。またトイレットペーパーを使えない持病の方、お尻に手が届きにくい肥満体の方のために洗うことで対応しましたので健康福祉機器でした。ですからバリアを持った人が、バリアを解消するためにこのウォシュレットを使いました。
その後テレビのコマーシャルなどにより、徐々にユーザーのニーズを反映させ、今は比率といたしましては全国のご家庭の53%、2軒に1軒のご家庭には間違いなくウォシュレットが採用されているという時代になりました。
時代と伴にどのように変わってきたかといいますとそれは〝リモコン〟です。当初は右利きが多いということで右側に温水ボックスを設け、その上に操作盤を配置しました。しかし右手の不自由な方もおられますので、1988年にリモコン式を作りました。リモコンをセットすることによって自由な位置が選べるようになりました。
次にいたずら防止、失敗防止対策です。間違ってボタンを押して水がでてしまうトラブルがありましたので、座らないと水が出ないよう安全性を高めました。
アンケートを取りますと、女性の方で一番悩んでいることは、用足し後の臭い、ご自分の臭気でした。このニーズに応えることで脱臭装置、着座しますと脱臭が始まり、ほとんど臭いを残さない商品が出来ました。
最近の〝アプリコット〟という商品になりますと、両サイドの袖がなくなりました。これは奥様方からボックスがついていると掃除が非常にしづらいというご要望、また障害をお持ちの方が使用する際に邪魔になるなどのご要望から、温水ボックスをなくしスッキリした形のウォシュレットを開発してまいりました。

現在様々な機能が付くようになり、腰の悪いお年寄りが近づきますと、便蓋が自動的に開き迎えてくれます。そして、小さなお子さんやお年寄りが流し忘れて出て行っても、便座が自動的に判断して便器を洗浄する時代になってきました。

バリアフリーからユニバーサルデザインへ

最初のスタートは障害をお持ちの方のためのものだったのが、今や全ての人のための商品に変わってきたところがユニバーサルデザインと言われる所以だと思います。

キッチン用水栓は万国共通ルールで。右側が水、左側がお湯です。2バルブハンドルが万国共通です。今でも多くの外国のお客様が宿泊されるホテル・ニューオータニやホテル・オークラなどの水まわりは、私たちがどんなに新しい商品を開発しましても、どなたが宿泊されても安心の2バルブが採用されていました。
しかし段々お年寄りが使われることや障害が出てきた方などには、2つのハンドルで微妙に調整することが難しくなってきています。そこでシングルレバーという1本のレバーで操作が出来る水栓が普及してきました。キッチンで手が汚れている時、瞬時に熱いお湯を出したい、瞬時に冷たい水を出したい時、レバーで操作すれば非常に楽で簡単です。これらのニーズに応えるために2バルブからシングルレバーが普及してきたのですが、リウマチの方で握ることができない場合には取っ手がリング式のレバーにすれば、指を通すことによって操作が可能となります。このように進化してきているのです。蛇口も常に進化してきているのです。これがユニバーサルデザインです。

バリアフリーというのは問題解決型です。例えば車イスに乗られている方をバスに乗ってもらうためにリフトをつけましょうというのがバリアフリーの考え方です。これでひとつ答えが出た訳です。ユニバーサルデザインというのは出来るだけ多くの方に安心して使用いただけるように考えるもので、バスで言えば低床バス(ノンステップバス)になります。小さな子供さんから高齢者・妊婦さん・松葉杖をついた一時障害の方、もちろん車いすの方にも安心してご利用いただけます。そしてユニバーサルデザインには満点が無いのです。このようにどんな人に使われているのか、どの人が使えないのか、ひとりでも多くの人に使ってもらうためにはどうしなくてはいけないかという創造的発想で物づくりを進めてゆく、これがユニバーサルデザインの考え方です。

「ユニバーサルデザイン研究所」について

TOTOの本社は北九州市にあり、私どもユニバーサルデザイン研究所も隣接してあり、そこにスタジオと呼ばれる施設を設けました。毎日、車いすの方、障害をお持ちの方、更にユニバーサルデザインの検証ですから、子供さんや妊婦さんにも来ていただきます。親子連れ、健常な高齢者と様々な方々に登録いただきまして、このスタジオに来ていただいて検証しております。
研究所の丘から下った所にサン・アクアTOTOという会社があります。これは福岡県と北九州市とTOTOの3者で共同出資して運営されている障害者雇用企業で、70名の従業員の方がおられますが内50名の方は上肢あるいは下肢に障害をお持ちです。TOTOのシャワーの部品などを組み立てる作業をし製品をTOTOに納入していただいています。場所が非常に近いものですから、働いている障害をお持ちの方にも、新しい商品の検討が入りますと交代で皆さんにモニターとして来ていただいております。このような取り組みを行っています。

障害をお持ちの方の検証、お年寄りのキッチンの検証、親子連れのキッチンの検証、健常な高齢の方の洗面所の検証など、現在北九州を中心に約300名の方にモニター登録いただきまして、様々な検証をおこなっています。それらの成果は冊子にしまして提供させていただいております。建築設計、建築施工の方々の参考書としてご利用いただいております。
最初に研究所ができた時に、私が研究所を作りたいと言った時には、金は掛けるな(笑)と言われまして、北九州本社工場の片隅に作りました。今はトップダウン、社長命令で全社でユニバーサルデザインを進めようということになり、少しはお金を掛けてもいいよ(笑)となりました。やはり関東地区にも欲しいということになりまして、神奈川県茅ヶ崎工場の古い建物を撤去しまして、新しいスタジオを現在建設中です。この秋10月か11月始め頃に完成する予定です。北九州のスタジオの約5倍の面積で、水まわりである洗面所、浴室、キッチン、トイレを同時に検証できるようにと考えています。北九州のスタジオにはお客様に見ていただくスペースがありませんでしたので非公開でした。検証に立ち会いたい、共同研究したいという方からいろんな要望を受けておりますので、この茅ヶ崎の施設では見学機能を持たせる方向で検討しており、皆さんと一緒にユニバーサルデザインを極めて行きたいと考えています。

TOTOのユニバーサルデザインの基本理念

TOTOのユニバーサルデザインの基本理念をお話しします。
ほとんどのメーカーが出している基本理念は変わりありません。私どもがこだわりましたの『ひとりでも多くの人に』です。基本理念というものは皆さんに向って、TOTOとはこんな考えですよとアナウンスしてゆくのですが、社員に向ってアナウンスすることも重要な仕事なのです。前述の水まわりの4部門、それぞれ開発部門が足並みを揃えて一緒に開発して行かないと、キッチンはすごくいいものができたが、お風呂場はよくないというのは駄目なのです。そのためには、ユニバーサルデザインの本を読みますと、〝誰にでも〟や〝みんなが〟という言葉が使われています。今の開発者に誰もが使えるキッチン、あるいは便器を考えなさいと言いますと、正直からだが固まってしまうのです。ですから今現在作っているものが、どういうレベルのものかということをよく確認をして、そして今使いたいユーザーにはどういう人がいるのか、そうすると今度新しく作るときには、こういうユーザーに対して絞って作ることを考えます。今まで使えた人は当然使えるのです。そうして一人でも多くに人が使える製品を考えてゆきますと、いずれ誰もが使える製品になるという考え方です。

ユニバーサルデザインの5原則ですが、これらは当たり前のことです。

  1. 姿勢・動作が楽
    姿勢や体の動きに無理がなく、長時間でも疲れないこと
  2. わかりやすく簡単な操作
    操作スイッチの場所や機能の違いがわかりやすく、操作の手順がすぐにわかり、操作そのものも軽い力でできたり、操作が簡単なこと。
  3. 使用者の違い・変化に対応
    あとから機能が追加できたり、使用者の違いなど、変化に柔軟に対応できること。
  4. 快適
    身体に有害なものが無いことはもちろんのこと、生理的な不快感がなく、温度や明るさなど、身体への負担が少ないこと。
  5. 安全
    事故が起きない配慮がされていること。

この5つのキーワードでものづくりを進めております。

 昨年、日経デザイン社のUDランキング、国内でUDを取り組んでいる企業のランキングをつけられまして、トヨタ自動車社、松下電器社とともにベスト3に選んでいただきました。
1位となっておりますが、1番はあと落ちるしかありませんのでなって欲しくありませんでした(笑)。1番より上がないものですか、贅沢かもしれませんが嬉しくありませんね(笑)。2002年にUD研究所を作りまして、まだ日が浅い訳です。トヨタ自動車、松下電器は長い間取り組んでいらっしゃいますので、私たちはちょっとまずいなと思いました。

私たちスタッフは議論し、私たちの〝売り〟はこれだと結果がでたのです。TOTOの製品は毎日かならず使うもので、そして皆が必ず使うものなのです。創業時、87年前の開発者が便器を作るときに、これは二十歳の成人が使うものだとは考えなかったと思います。最初の開発者から小さなお子さんからお年寄りまで、障害をお持ちの方まで、かならずこの便器を使うのだということを考えてきたのだと思います。現在はUD研究所でボーダーラインを引いてチェックしてゆきますが、当時はそのような研究所はありませんでした。ですから開発者の感性なのです。開発者が深い思いを持って考えればいいものができるでしょうし、軽く考えればあまりよいものができないと言えます。TOTOのなでにもバラつきがあったのです。ですからUD研究所を作って、TOTOのものづくりの底上げ、ボトムアップ、最低でもここまでのものを作りましょうと現在取り組んでおります。
開き直るわけではないのですが、ユニバーサルデザインという考え方が出る前からTOTOは、人の行為を見て、検証し、もの造りに取り組んできました。

TOTOのポイント

TOTOのポイントをお話しします。
TOTOでは、ユニバーサルデザインの五原則に基づいてものづくりをし、創造的発想でどうすればより使いやすいものが出来るかということを加味してものづくりをし、それをシーン検証します。  
シーン検証といいますのは、これまでも開発者がお年寄りの真似をして、想像して行っていました。しかし実際には違う、本当のお年寄りがされることは模擬テストでやることとは違うことが分かったのです。ですからユニバーサルデザイン研究所は本当の実ユーザーによるシーン検証をすることが私たちの売りです。シーン検証には開発者とデザイナーとUD研究所メンバーの3者が一体となって検証してゆきます。かならず〝気付き〟があります。この新しい〝気付き〟をもって開発者はその後に反映させてゆきます。このサイクルが重要なことだといえます。

 実ユーザー、本当のお客様の視点で評価をしないといけませんということを皆さまにお伝えしたいと思います。成人の方、親子、高齢者、幼児、妊婦、車イスの方、オストメイトの方、その他に薬害のため腕がほとんど無いサリドマイドの方が私たちのお客様にいらっしゃいます、これらの方々がトイレットペーパーを片手で取る時に、どのような取り方をするのかという所まで研究しています。

 トイレの検証ですが、新しい商品で奥行きが700mmを切るようなコンパクトタイプをつくりました。従来からある便器と比較して、高齢者や子供さんを検証しました。お年寄りが立ち上がるシーンがあります。TOTOにはゼネコン企業や設計事務所から、スペースがこれだけしかないが、プランを提案してくれと言ってきます。私たちはそれらの方々に「立ち上がる時には、頭を動かさないと立ちあがれないのですよ」とお話しします。普通は気が付かないのですが、立ち上がるときには頭を前後、上下に振って、重心を移動して立ち上がっているのです。そうするとその頭を振って立ち上がるスペースが必要になりますから、広さは1400mm必要なのですとお話しします。しかし、現場は広げられないとなると、便器をコンパクトにしてスペースを確保するしかないということになります。そんな理由からコンパクトタイプの便器が出て来ました。便器が小さめであれば同じスペースであっても、お年寄りの頭の前の隙間にゆとりができるのです。

 お年寄りが立ち座りをする時に、従来は後ろには高さ83cm程のタンクのあるカウンターがあります。高すぎるためにプッシュアップが出来ない高さで力が入りません。そこで手すりと同じ高さのカウンターを作ろうと試みました。同じ高さであったならばお年寄りの方でも利用して立ち上がることが可能です。そこで70cmの高さのカウンターを作りました所、非常に好評でした。
それでは子供さんに対してはどうなのかを見てみました。カウンターが無い時には紙巻の上を押さえてバランスをとっています。子供さんの場合もお年寄りと同様にカウンターがあることで非常に安全なトイレだと言える訳です。

 次に便器を洗浄し、手を洗ってもらいます。4歳の女の子にやってもらいました。タンクの上に手洗いがあるものと、別に手洗いのあるトイレを使ってもらいました。手が届きませんから、便座の蓋の上に女の子が上がって手を洗っています。当たり前に分かっていたことなのですが、注意深くこのシーンを見ますと、この女の子が蓋に登る時に、ロータンクの蓋をつかんでいます。このタンクの蓋はつながっておらず、ただ置いてあるだけなのです。女の子が登る時に微妙に動いています。この時はバランスよくあがりましたが、ちょっとあわてていたりすると、蓋と一緒に落ちることがあります。やはり、お年寄りも手を伸ばして洗うことは大変ですから、手洗い器は別体がいいです。子供さんにとっても安全ですよと言うことで、これからお年寄りや子供さんのいるご家庭にはこのようなタイプのトイレを提案してゆかなければなりません。

 次にお風呂のシーンです。このお風呂は実際に入ることができる実験室になっています。そこで家族に入っていただきました。3人のお子さんが一緒に入っています。ここでのポイントは手すりです。手すりはお年寄りや障害を持っている方のためのものですが、ご覧のようにこのお子さんはお風呂から出る時にしっかりと手すりを握って出ています。後ろの子供の横移動するときに、ちゃんと手すりを握っているのです。子供さんの行動をよく見ておいて、手すりの長さはそれでよいのか、又子供さんが握りやすい径になっているのか、これらが次の評価になってくる訳です。これらのことが実際に行動を見ることで分かってくることなのです。

 キッチンの検証もしています。最近座って調理をすることが見直されてきました。主婦の方は結構下ごしらえは座ってやりたいと思われています。そこで取り組んでみました。結果、立って調理する場合と座って調理する場合の導線の長さが違うことに気が付きました。検証する前は座って調理することは面倒ではないかと思っていましたが、座って調理する時の方が上半身を回す動作で済んでしまうことに気付いたのです。座って調理することの方が導線が短いのです。さらに近年はどのくらい力が加えられたかという検証もしております。その結果、座って調理することは3分の1で済むことがわかりました。高いところの物は届きませんので、動いて取らなくてはいけません。食器棚が下りてくるタイプとの組み合わせで、奥さんの作業がとても楽になることが分かります。

 子供さんと一緒に調理する時には、子供さんにとって従来の高さでは高すぎますので、ワゴンのようなものを設ければ小さい子供さんと一緒に作業ができます。
この水栓は先端止水といいまして、先端にハンドルがついています。奥にハンドルがついていると小さなお子さんは使えませんが、先端についているので野菜洗いができることが観察することでわかったことです。

 洗面所の一例ですが、レバーが遠いとお母さんが水を出してやらなければなりません。この例はレバーの位置が変えられるということです。位置を手前にすることで、小さなお子さんでも自分で操作することが可能になります。いろいろ検証してゆけば、いろいろな〝気付き〟が出て、それが製品に反映されてゆくことになります。

 シーン検証ということで、シーンを見ることによって様々な〝気付き〟が出てくるのですが、スタジオに来てやられていることが本当かどうかを調べる必要があります。そこで、モニターの方のご自宅に伺いまして、実際の生活を観察する事も怠ってはいけません。例えば、ある奥様が高いところには物を置きませんとおっしゃっているのに、ご自宅に伺ってみますと、実際には高いところに物を置いてあり、笊で扉を開いて上手に使っていたということがあります。又、竹踏みマッサージの竹を使って健康管理と高さの調整の両方を兼用していた奥様の例もありました。
キッチンとか洗面所はご自宅に行って作業してもらうと見えるのですが、お風呂場とトイレは見ることができません。ただ使っていないお風呂場やトイレを見せていただくだけで、それぞれのお宅の工夫を見ることができます。そういった所に物づくりのヒントが隠されています。

 忘れてはいけないことですが、そしてこれが一番大切なことかと思いますが、事後の検証です。作った物、作った空間を必ず検証しなければいけないと考えます。検証しようとご自宅に伺いますとクレームを言われてしまうことがあります。クレームは宝なのですと私はいつも提唱しています。そのクレームをきちんと処理することによって自分の財産になりますと言っております。

 事前に検討し、物造りをし、そして事後の評価をして、悪ければ直さなければいけませんし、悪い所は次の商品に必ず反映させていかなければならないと考えます。
いままでお話ししましたように、私どもでは、レスト(トイレ)、浴室、キッチン、洗面所、器具だけではなく空間についても取り組んでおります。

使いやすいパブリックトイレの配慮について

後半になりますが、使いやすいパブリックトイレの配慮についてお話しします。
旅先などでの利用など、ウェイト的には高いと思いますので聞いていただきたいと思います。
TOTOでは約40年程前から車いすトイレについて研究をしてまいりました。ところが本当に振り返ってみますと、車いすを使われている方がどうすればトイレが使えるかという所以外はほとんど注意していませんでした。現在、ハートビル法、交通バリアフリー法、福祉の町づくり条例、こういった法律、条令が浸透してきて、世の中が変わってまいりました。

例えば、地下鉄の駅、JRの駅など、ほとんどトイレ、エスカレーター、エレベーターなどの環境が整ってまいりましたので、これまで外出されなかったお年寄りや、障害を持たれている方々がどんどん外へ出るようになりました。

トイレ設置の現状

トイレについて視覚障害の方から素朴な質問をいただきます。トイレに行くと、どうしてバラバラの配列をしているのですか。何故ひとつのルールでトイレができないのですかと訴えられます。<BR>
視覚に障害のある方は、トイレに入りますと、まず三面の壁を丹念に探して、洗浄ボタンを探されます。洗浄ボタンを探さないと安心して用足しができないのです。流せなかったらトイレから出られないのです。目が見え、音が聞こえる人間は、流す方法を知らなくても、誰もいないということを察知して逃げるように出て行ってしまうことはできますが、目の不自由な方はわかりませんから、流す方法を見つけてからでなければ用足しされません。
でも一生懸命壁を探してもなければ、膝を床につけて床に押しボタンがあるのではないかと探されるケースもあるのです。視覚障害の方と共同研究をしておりますので、トイレにお連れする機会があるのですが、その行為を間近に見ますと、どうしてもっと早くルールを作らなかったかなと、胸が痛みますし、反省しております。
視覚障害の方のお話しをしましたが、昨年の9月の敬老の日に発表された数字ですが、65歳以上のお年寄りが何人いらっしゃるかといいますと2,500万人近くいらっしゃるのです。そのお年寄りはどんどん目がぼやけて来るのです。視覚障害という全盲とか弱視ではなく、ぼやけてくるのです。そうすると認知しにくくなってくるのです。その人たちのためにもルールがあった方がいいはずです。われわれ自身はどうなのでしょう。これから歳を取って行きます。結局同じ道を辿るのですから、皆に優しいルールになることなので、今われわれは取り組んでおります。
新しい物件を調査してみますと、いろいろなものがバラバラに装備されています。目の不自由な方にはわからないだろうなぁと思います。
TOTOでは〝勝手にパトロール〟を行います。新しく出来た物件をパトロールする訳です。今回お話しする事例は山手線沿線のパトロールです。120ヶ所程まわりました。もののみごとに洗浄ボタンだけでもバラバラに様々な場所に設置されているのがわかりました。私どもでは業者さん向けのバリアフリーブックを発行しているのですが、無茶苦茶に設置されているのが現状です。これは現場の都合で、配管を立ち上げた位置とか、壁の配置とかでやむを得ず配置が決められてしまうようです。

ルール統一の必要性

何がやりたいかといいますと、それは簡単なルール作りです。紙巻器、洗浄ボタン、非常コールの3つの位置を決めましょうということなのです。

目の不自由な方はトイレに入ると洗浄ボタンを探す訳ですが、もう探さなくていいですよ。便器に座って右か左かに手を伸ばすと紙巻器に当たるでしょう。紙巻器に手があたったら、その上に手を伸ばすと洗浄ボタンがありますよ。それで洗浄できますよ。洗浄ボタンがみつかったら、ずぅっと後ろに手を戻してゆくと、そこに非常ホボタンがあるのですというルールです。手洗器、ウォシュレットリモコンなど様々なものがついたりつかなかったりしますが、それらは一切無視しましょう。3つだけのルールでいいのです。今どこにでもついている器具をちょっとだけ位置を変えましょうということです。

視覚に障害のある方にお聞きしました。デパートの例で見ますと、売り場にいる時どこにトイレがあるのかわかりません。次にトイレの場所まで連れて行ってもらっても、右が男性用か左が男性用かわかりません。こちらが男性用ですよと教えてもらって入っていくと、どちらに小便器があり、どちらに大便器があるかわかりません。わからないものづくしです。最後は便房の中に入って座ったら操作するスイッチがわからないのです。大きな所から小さな所までいろいろとあるのですが、様々な人からご意見を伺い考えました。ブースの場所までは、まわりにいる他の人に聞けるでしょうと考えました。自分ひとりになってしまうブースの中では、誰にも聞けないので、このブースの中のルールを作らなければいけないと考えたのです。

 皆さんは私が車イスで使うトイレの話しをしているのだろうと考えられると思いますが、実は視覚に障害をお持ちの方は、車いす用のような広いトイレには入らないのです。小さいブースの方が分かりやすいのです。ですから一般のトイレに入るのです。一般のトイレを使うのですが、例えば上野駅や東京駅のように、人の往来の多い所はあぶないので車いす用のトイレをつかうと言われます。ですから全てのトイレをこのルールで作っておかないと片手落ちになります。腰掛便器の使われているトイレ全てをこのルールによって進めたいと私たちは訴えています。

紙巻器があったら、その上に洗浄ボタン、すこし離して非常ボタン、このすこし離してという意味は、あまりくっつけると間違って押してしまうからです。これもユーザーのご意見です。このように逆L字形に配列しましょうと進めております。

ルールを作ることによって、視覚に障害をお持ちの方は非常に助かります。しかし、ルールを作ったがために、今まで使えていた他の人が使えなくなってはならないということで、それを補強するために、われわれは様々な検証を行ってきました。このルール化はメーカーだけで行うのではありませんので、ハートビル法の建築設計標準の改訂委員会の委員長をされている東洋大学の高橋儀平教授の研究室を一緒にこの共同研究を進めております。現状調査もやってまいりました。ユーザーの検証も行っております。このためのデザイン・キットを作り、東京、名古屋、北九州の3会場で多くの人に集まっていただいて検証してみました。

リウマチの方、この方の場合は必ず座って洗浄ボタンを押します。全盲の方の場合は、必ず立ち上がって洗浄ボタンを押されます。脊髄損傷の方は、カテーテルを使って便器に乗らずに小用をされます。このようにいろいろな方が押せる位置を探さなければなりません。それを検証して行く訳です。皆さんの手の届く範囲、一人一人データを取りまして、私たちが進めようとしている逆L字プランを重ね合わせてゆく訳です。ほぼ100%、このほぼ100%といいますのは、ちょっと手の届かない方に手を伸ばしていただいたり、後ろ向きで押してもらったりして、押してもらうことができたと言うことですが、これらの検証でほぼ答えが得られましたので、昨年の7月8月、福祉の町づくり学会と日本建築学会で、この問題提起、ルール化の必要性を東洋大学と共同研究という形で発表し、昨年10月の福祉機器展で東洋大学との研究成果を発表しました。
ルールは3つの器具の配置です。L字型に配置しましょうということです。国土交通省、経済産業省からも、いいことであるとバックアップをいただいております。これが第一弾です。

これからのトイレ整備

第二弾は、一般のトイレに手すりをつけることです。
福岡天神の地下鉄、カレッタ汐留、伊勢丹新宿などの一般のトイレに手すりが付いております。一昨年改訂されましたが、新しいハートビル法では、車イス用トイレ以外にも、男性用、女性用それぞれのトイレにちょっと広めのトイレを作りましょう、そこに車イスの方が入れるようにしましょうとしています。そうすることで車イスだけではなく、子供さんを連れてオムツ替えをしたい方、荷物を沢山持っている方にも使いやすいトイレとなります。

 先日オープンした名古屋の中部国際空港のトイレは、すべてのブースがカートごとは入れるようになっています。カートごと入れるということは車いすの方も入れるということです。これはトイレとしては大きな転機であり、このような考え方が登場したということはとてもありがたいことで、これからどんどん幅が広がってゆくと思います。

 それ以外の商品としましては、これまで大人のおむつ交換のために、床にグランドシートをひいて使用していたトイレに、折りたたみ式のベッドが普及してきました。
オストメイトの方がいらっしゃいます。オストメイトの方が処理できるように、汚物流しとして使用するオストメイト対応トイレパックを用意しております。

現在、私たちが強くお願いしておりますことは、全ての階の全てのトイレに、全ての機能を持たせる必要ないということです。大切なことはインフォメーションです。建物全体で全てのユーザーに対応できるプランをこれからは真剣に考えてゆきましょうと提案しています。例えば、オストメイトの方のトイレは2階と5階にありますよ。それさえはっきり分かれば、オストメイトの方は安心してデパートに行けますし、建物に入れます。ベッドの使えるトイレはここですよ、車イスの方の使えるトイレはここにありますよといったインフォメーションを明確にすれば安心して出かけることができます。

 私どものセンターが北九州なものですから、九州の情報を出してしまって申し訳ないのですが、昨年4月に新館がオープンした福岡天神のデパート、岩田屋さんのインフォメーションの例ですが、館内の売り場の案内は勿論ですが、数多くのトイレについてのインフォメーションが掲示されています。3階のトイレの中は、このような状態のトイレですよと分かるように表示されています。訪れた方は安心です。お客様は自分が使えるトイレがどこにあるか直ぐにわかりますので非常に喜ばれております。今はそのような時代なのです。

 北九州にはデパートが2つございますが、昔からあるデパートの方が新しいデパートよりもお客様が多いのが現状です。どうしてそんなに昔からあるデパートのお客様が多いのかを調べてみました。それはトイレの前にソファーが置いてあるのです。そこに座れるのです。おばあちゃんがいっぱい座っています。「おばあちゃん、どうして新しいデパートに行かないのですか」と聞いた所、「ソファーがないから行かない」という答えが戻ってきました。これが私たちのきっかけとなります。そういうものなのですね。トイレの整備やいこいの場、休息の整備がこれからの究極のキーワードになってくるのではないでしょうか。

最後に

いろいろとお話ししてまいりましたが、私どもの製品は、お客様が毎日必ず使うもの、皆が必ず使うものです。40年近くトイレを研究してまいりました。研究を始めてこの30年間、TOTO製品の出荷した数量は約1億5千万個です。日本の約7割の住宅に納品させていただいていることになります。デパート、駅などパブリックのトイレを加えますと、言い過ぎかもしれませんが、日本中の皆さんにTOTOの商品を使っていただいているトイレやお風呂です。
このような商品をお届けする訳ですから、社会的責任を強く感じ、現在の社長のトップダウンで、TOTOの商品は全てユニバーサルデザインにしなさいということで、私たちはユニバーサルデザイン推進本部を組織に持ち推進しております。
これらかも皆さまからご意見をいただきながら、商品の改良を進めてゆきたいと思っており、皆様の益々のご支援をいただきたいと存じます。
本日は本当にありがとうございました(大きな拍手)。

竜口所長のお話しの後、一緒においでいただいた、高田雅子様(東陶機器株式会社 ユニバーサルデザイン推進本部)から、今回の「もっと優しい旅への勉強会」定例会で、皆さまからのご意見をいただきたいと思っております。特に旅行先などで水まわり(トイレ、お風呂、洗面所など)に関してのご意見やご提案など是非お聞かせください、とお話しをいただきました。本当にありがとうございました。

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