「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2004年12月 定例会の報告
福祉車両の現状とトヨタの取り組み

講師:泰松 潤(やすまつ じゅん)氏
    トヨタ自動車株式会社 特販・特装車両部 カスタマイズ室

1973年トヨタ自動車入社。シート・シートベルトの設計を10年担当後、セリカの商品企画に11年携わる。その後、新コンセプト車の企画や中国、インドのプロジェクトを担当。
1998年から新企画のWiLL Viの開発リーダーを務めた後、2000年、現フリート営業・特装部に替わり、3年前よりウエルキャブを担当。
自動車工業会の福祉車両ワーキンググループ主査も務める。

ただいまご紹介いただきました泰松です。今日はどうぞ宜しくお願いいたします。
11月に小倉で行われました《西日本福祉機器展》で、重岡さんからお声を掛けていただき、このような場をセットいただきました、深く感謝申し上げます。

さて、私どもトヨタの車はお陰様で沢山の方々にご愛用いただいております。標準車では約44%、今日ご紹介します福祉車両につきましては60%以上の皆さまにトヨタウェルキャブをご利用いただいております。今日おいでいただいている皆さまも、ご家族やご友人の方を含めますと、何がしかの形でトヨタと関係を持っていただいているわけで誠にありがたいことと存じます。あらためてお礼申し上げます。

トヨタといいますと最近では経常利益1兆円と新聞などで云われておりますが、これも本当に皆さまのお陰でございます。これからもっと皆様のお役に立てる企業になれるよう頑張っていきたいと存じます。その点で現在もっとも力を入れているのが環境です。ハイブリッド車のプリウスや、燃料電池車の開発にと、地球の将来を見据えて第一優先でやらなければいけないこととして取り組んでいます。そしてそれと並んで福祉車両にも力をいれて、ご高齢の方や体に障害をお持ちの方々のお役に立ちたいということで取り組んでいます。
さて本日は「福祉車両の現状とトヨタの取り組み」というテーマでお話しをさせていただきます。

福祉車両を取り巻く環境

まず〝福祉車両を取り巻く環境〟についてお話しいたします。
福祉車両を取り巻く環境

1981年の国際障害者年以来、福祉機器への関心が高まってきており、今年も全国規模の福祉機器展が開催され、どの展示会でもたくさんの方に熱心に見ていただきました。
モーターショーはコンセプトカーや、未来の車、将来技術などをアピールするエンターテーメント溢れるショーです。私は当初、福祉機器展はおじいちゃんやおばあちゃんがいっぱいの、おとなしいイベントのイメージを描いていたのですが、実際会場に足を踏み入れると、そこはものすごい熱気に包まれ来場された方々の真剣さ、関心の深さはモーターショーの比ではないと感じました。福祉機器展では、車よりもむしろ、ベッドやオムツ、トイレ、食事の介助用具など衣食住に密接な生活用品が中心となっていますが、どれも体の不自由さを補う必要不可欠なものとして、一生懸命な姿が印象に残っています。  

高齢化の進展のグラフ

さて皆さん、ご存知のように、少子化と長寿化により日本では高齢化が急速に進んでいます。2015年には4人にひとりが65歳以上となります。欧米と違いは、日本は高齢社会が急激に訪れることです。戦後のベビーブームで人口の一番多い団塊世代が10年後に65歳に達するということで、介護の問題が社会問題化しています。
介護の現状です。寝たきり老人の方が250万人いるといわれています。その介護は配偶者(28%)や子供(21%)、また子供の配偶者(33%)など親族によるものが90%以上となっています。また、介護者は女性が86%で、ほとんど女性が介護していることになります。また年齢別では、39歳以下の人による介護はわずか6%で、9割以上が40歳以上となっています(49~58歳18%、59~68歳 27%、69歳以上49%)。老人が老人を介護するいわゆる老々介護の実態がおわかりになると思います。  
また政府の政策で在宅介護を進めていますが、福祉施設・病院と自宅の往復が必要となることから、移送サービスという新しい福祉ビジネスが生まれてきており、ここでも福祉車両のニーズが高まってきています。

障害をお持ちの方について

次に障害をお持ちの方について説明します。
障害をお持ちの方の数は全体で約600万人といわれております。その内の350万人が身体に障害をお持ちで、またその350万人のうち、54%にあたる190万人の方が肢体の不自由な方となっています。こういった障害をお持ちの方々の自立、社会参加を厚生労働省はじめ積極的に進めようとしています。介護を必要とされてる方も同じですが、お体の状況が許す限り、積極的に社会参加して社会の中で何かの役割を果たしたり、社会といろんなかかわりをもって生きていける社会に変わりつつある、また変えていかないといけないと思います。

社会参加という観点から、福祉車両は大きな役割を持っています。福祉車両を自分で運転する人のための限定付運転免許は、毎年約4000件新規付与されています。累計で、2003年度で25万人近い方々が限定付免許をお持ちです。

福祉車両市場の状況

市場全体の動向のグラフ

次に福祉車両市場の状況を説明します。日本の自動車市場ではこの数年400万台前後の登録で成熟した市場になってきております。そのなかで福祉車両は、数は少ないものの右肩上がりで年々増加しています。99年、2000年頃介護保険が見直され、前年に比べて130%~140%という非常に高い伸びとなっています。最近はやや落ち着いてきてはおりますが、それでも毎年堅調な伸びで推移しています。
統計は軽四輪、大型バス、小型車と3つの車両タイプに分けていますが、軽自動車はNPOやボランティアの移送サービス用として伸び、大型バスは低床バスやノンステップバスで、バリアフリー法で義務化されたこともあり増えてきています。一番大きく伸びているのは小型車で、全体を押し上げています。施設・病院で使う車も増え、個人で利用されるお客様が大変増えてきています。

小型車市場の動向のグラフ

小型車市場をタイプ別で見てみますと、まずドライブアシスト(自操式:自分で運転するタイプ)ですが、台数は約1000台ほどですが、このグラフ(自動車工業会データ)はトヨタ、日産、ホンダといったメーカー生産のものだけで、ニッシン、フジオートといった後付け手動運転補助装置付車の数は含まれていません。それらを含めると全体で7~8千台はあると思われます。
次のタイプは回転シートです。主に助手席が回転して乗り降りしやすくなっているタイプの車で、一時期大変数が伸びましたが、最近は約5000台前後で安定しておりリフトアップシートに取って代わってきています。
このリフトアップシートは助手席や2列目のシートが回転してさらに外にスライドし車いすの高さまでまで降りてくるものです。最近はミニバンが大変流行っていますが、シートの高さが高いので、車イスからの移乗が大変です。リフトアップシートではシートがお迎えに来るので大変移乗しやすくなります。このタイプは最近一番数が増えてきていまして、このグラフでも1万台以上、全体の3分の1以上になります。
次にスロープ車ですが、車両後部でスロープを引き出して、それに沿って車いすのまま乗り込むタイプです。車いすからの移乗が困難なお客様に重宝いただいています。個人で使われているお客様が多いですが、施設や病院などで送迎に使われるケースも多くあります。5年前くらいから出始めて約4000台、一番伸びてきているタイプです。
リヤリフトといいますのは、マイクロバスのようなちょっと大きめのワゴンの後ろにリフトが付いている車両で、これも車いすのまま車に乗ることができるタイプです。これはほとんど病院や施設で使われています。今後高齢化の進展で病院・施設が増えてくるかもしれませんが、約6000台の安定した数となっています。

次にこの市場の中でトヨタはどのような位置にあるのかをお話しします。全体のなかでの割合、シェアでいうと約60%前後で推移しております。用途別にみますと、個人と法人とありますが、10年前は70~80%が法人、病院・施設で使われる福祉車両でしたが、最近は個人で使われる方が非常に増えてきており、2003年では個人用途が80%を越えています。

トヨタの福祉車両への取り組みの歴史

それでは次にトヨタの福祉車両への取り組みの歴史をご紹介します。

初のリフト付き改造車1965年、東京オリンピックの翌年、第2回パラリンピックが開催され、トヨタグループのアラコ(2004年10月トヨタグループ内のトヨタ車体と合併)という架装メーカーで手動運転補助装置を付けた自操式車両や、マイクロバスの後部にリフトを取り付けて車イスのまま乗り込むタイプの福祉車両を作ったのが始まりです。
1981年には国際障害者年を機に、〝ハンディキャブ〟(介護式)、〝フレンドマチック〟(自操式)という名称でメーカー完成車として発売を開始しました。
1994年にはサイドリフトアップシート車を新開発し、国内初として発売しました。1996年には〝ハンディキャブ〟から現在使用している〝ウェルキャブ〟に
名称を変えました。〝ウェルキャブ〟はトヨタの造語です。ウェルフェア(welfare:福祉)と、キャビン(cabin:部屋)を組み合わせて〝ウェルキャブ〟としたわけで1998年、コンフォートというタクシー専用車両の後部座席が回転して外に出てくる後席回転シート車を設定しました。

ファンカーゴリフト付き2000年にはコンパクト2BOX(ファンカーゴ)の後部にスロープを架装し、車いす仕様車として設定しました。この写真がそうですが、まず横開きの後部ドアを開け、スイッチ一つで10cm程車両が下にさがります。このスロープを引き出すと傾斜角度約8度のスロープができますので、車いすのまま乗車することができます。

ラウム 助手席リフトアップ車その後も、いろいろな車種にスロープ、回転シート、リフトアップシートなどを設定しました。この写真はラウムの助手席リフトアップシート車です。このラウムは、通常前のドアと後ろのドアの間にあるBピラーを、後部ドアに内蔵し、安全を確保した上で、ドア開口幅を1メートル80センチまで広くした車です。ドア開口が広いのでどなたでも乗り降りし易い、いわゆるユニバーサルデザインの車です。ウェルキャブ仕様としても大変使いやすく、膝が曲がりにくく普通のドア開口幅では乗り降りできないお客様にたいへんご好評をいただいております。
2004年には日本で初めてサイドアクセス車を開発しました。これは後ほど詳しくご説明します。

福祉車両の分類

福祉車両の分類ですが大きく二つに分けられ、ひとつが『自操式』自分で運転するタイプ、運転補助装置付の車で、トヨタでは〝フレンドマチック〟と呼んでいます。もうひとつが『介護式』で、介護する人がいて、自分では運転しないで乗せてもらう車です。障害の度合いに応じて、少し車の乗り降りがしづらいとか、片麻痺だけど多少は歩行ができる方には回転シート、普段車いすを使われていて車のシートに楽に移乗したいお客様にはリフトアップシート、車いすからの移乗が大変な方にはリフトタイプあるいはスロープタイプの車いす仕様車が適しています。このように一口で福祉車両といってもいろんなタイプがありますので、使われる方の体の状況や介護される方の負担も合わせ考えて選ぶことが大切です。

トヨタの車種の設定状況です。お客様のニーズの拡大に合わせ、このように設定車種を増やしてきました。トヨタには昨年末現在、全部で77車種の車がありますが、その内の51車種に設定していました。回転シートやスロープ車といったタイプでいうと、107のタイプとなりますが、今後は少し見直そうとしています。この2、3年間お客様の最大の要望である低価格化に取り組み、半分から2/3の価格に下げてきましたが、それでもまだまだ高いと思っています。メーカーとしてはもっと効率を上げて、お客様にお求め安い価格にしたいのです。幸いにも今年は先ほど説明したラウムやシエンタに続いてポルテやアイシスというユニバーサルデザインの車が出ましたので、それらを中心に本当に使いやすいウェルキャブを目指して皆様に商品を提供していこうとしています。

車両具体例の紹介~介護式~

次に具体的にいくつかの商品をご紹介します。
介護式車両(ポルテ、アイシス、ハイエース)左上がポルテのサイド・アクセス車です。2つシートが並んでいますが、一つは車の助手席が外に出てきて車輪が出、外出先でそのまま車いすとして使えるもので、〝お出かけシート〟と呼んでいます。もう一つは通常皆さんが見かけられる車いすのタイプで、そのまま助手席に乗り込むことが出来ます。体の具合や生活の状況に応じて使い分けることが出来ます。このポルテは普通の車の手前に引いて開けるスイングドアと違って助手席のドアが後ろにスライドします。普通の車ですと開口幅は70~80cmしかありませんし、開けたドアが邪魔で乗り降りの妨げとなるのですが、前にドアがなく、開口が30cm広く110cmもありますので、ウェルキャブとして最適です。今お話したシート・車いすを楽に載せることができるのです。今日本では唯一このポルテだけの仕様です。
次はアイシスです。10月に発表したトヨタ最新のクルマです。このクルマもユニバーサルデザインコンセプトの車でBピラーはラウム同様ドアに内臓されていますので、180cmの開口幅があります。この写真は助手席が回転して外に出て下に降りてくるリフトアップシートタイプです。別のタイプでは2列目の座席が回転して下に下がるものもあります。助手席を前側にたたんでおくと足元がとても広いので膝を伸ばしたまま乗り降りすることが容易にできます。膝に障害を持った方はもちろんですが、ご高齢の方は膝を悪くされることが多く、そのようなお客様によくご利用いただいています。これも日本ではトヨタだけの仕様です。
これらのようにベースがユニバーサルデザインコンセプトですと、いろいろなアイデアを集中させて大変使いやすいウェルキャブが可能となります。改造も最小限でできますから、価格の点でもお客様にもお求めやすい車になります。

車両具体例の紹介~自操式~

自操式車両の写真 次に自操式の車をご紹介します。
現在運転補助装置付の完成車両として設定しているのは、ラウムとエスティマの2車種で、ラウムは重岡さんにもご利用いただいております。ありがとうございます(笑)。このラウムは2代目ですが、リアドアがスライド式で邪魔にならないので、後席足元に収納装置をつけることで車いすの収納が楽にできます。
エスティマのフレンドマチック車は、ウェルドライブ・システムといいまして、車いすから車に移乗することなく運転することができるというコンセプトです。運転席が一旦後ろに下がって回転し、後部のドアから外に出てきます。シート下に格納された車輪が出てきて、車両から分離し車いすとして単独で自由に移動できます。この車いすは電動で自分で動かすことができるタイプです。運転席から直接外に出られればいいのですが、フロントドア開口が狭いこととハンドルが邪魔で実現は難しいです。お客様からはもっとコンパクトな車で、という要望が多く今後の課題です。

運転補助装置について説明します。
下肢障害をお持ちの方は両手だけを使っての運転となり、右手でハンドルを、左手でアクセル・ブレーキを操作されます。ハンドルが片手操作となるので操作力を通常の半分くらいにして、楽にハンドルをまわせるようにしています。またラウム、エスティマのほかに15車種ほどフレンドマチック取付専用車という仕様を設定しています。これは軽いハンドルの機構をメーカーではじめから装備し、運転補助装置はニッシンさんやフジオートさんなど後付メーカーの装置を付けてお使いいただく車です。障害をお持ちの方は、百人百様、様々な個別のご要望をお持ちです。ニッシンさんやフジオートさんはカスタマイズを含めていろんなタイプの補助装置をお持ちなので、それらのメーカーさんのご協力を得てお客様のご要望にお応えしています。

実写車を見ていただく機会について

常設展示場・福祉機器展示会のようす次にウェルキャブの実車をお客様に見ていただく展示場や展示会のお話しをします。
福祉車両はトヨタでも全体の販売の中で1%の台数しかなく、販売店でもなかなか実車を見ることが出来ません。また展示されていても1台か2台ですので、それが自分に合っているかどうかわかりませんし、いろんな車種タイプを比較することは出来ません。そこでメーカーとして《ハートフルプラザ》という常設展示場を札幌から福岡まで全国で8箇所(札幌、東京、千葉、千葉中央、名古屋、神戸、広島、福岡)設置しています。それぞれバックヤードをあわせると20台前後のいろんなタイプのウェルキャブを一通りそろえています。  
コンサルティングスタッフは単に商品説明だけでなく、お客様に最適のウェルキャブを選んでいただくためのアドバイスを差し上げたりご相談をお受けしています。またお客様それぞれに合わせたカスタマイズ架装の相談にも応じています。
お台場のメガウェブに、ユニバーサルデザイン・ショーケースを今年4月に開設し、車をはじめとしていろんなユニバーサルデザイン(UD)商品を展示し誰にでも使いやすいというUDコンセプトをわかりやすく紹介しています。福祉車両も誰にでも使いやすいユニバーサル商品として数台展示しており、1階のコースでは試乗もできるようになっています。

福祉機器展では、各メーカーが揃って出展するので、各社の比較をするのにいい機会です。こういった場、機会を増やすことで、少しでもお客様に福祉車両に親しんでいただけるよう取り組んでいます。

ウェルキャブの開発について

次に新型ハイエースを例にウェルキャブの開発についてお話しをします。
ハイエースは、施設・病院などでご高齢の方や、車いすをお使いの方にご利用いただいてるケースがほとんどです。そこで介護をする方、される方、そして施設・病院を経営されている方、すべての方に喜んでいただける車作りを目指しました。
そのためトヨタでは開発陣が直接施設や病院に出かけ、移送にも立会って、現場で何が起こっているか、介護に携わる方々が何をどう思われているかを現地現物で確かめ、現状の不満や要望をお聞きし、それらを新型ハイエースで改善・実現しようと知恵を絞りました。
介護をする方は女性が多く、また時間のない中での作業が多いのが現実です。シートベルトの掛け易さ、車いす固縛のしやすさ、それと時間の短縮を要望されました。一度体験されるとわかるのですが車いすに乗った方にシートベルトをかけるのは大変難しく、手間のかかる作業です。また車両の後端に足をかけての作業は危険も伴います。そこでリフトそのものにシートベルトの機構を取り付けることで、時間短縮を図り操作性も大幅に改善しました。
また自分で歩ける方でもお年をとると車への乗り降りは大変です。シートを跳ね上げ式にしたり、ドアの入り口にステップをつけたりして、楽な姿勢で少ない労力で乗り降りできるようにしました。 
これらは試作品を作ってはご意見を頂戴し、また改良するといったことを繰り返し何度も行なった結果です。その結果新型ハイエースではお客様のご要望をほぼ100%実現できました。
更に大事なことは価格です。施設・病院の経営者の方にとって、お客様に十分満足いく介護サービスをするには、健全な経営が必須です。新型ハイエースでは、様々な工夫をすることで商品性を向上させるとともにコストも大幅に下げることに成功しました。開発チームの懸命な努力によるところが大ですが、先ほどの電動ドアステップなど数も多く便利な装備をオプションから標準装備にすることなどで最終購入価格を大幅に下げることができました。結果として、ライバルに対して商品性で圧倒し且つ安い、という経営される方にとっても嬉しい車とすることができました。

ポルテの写真それでは次にモーターショーで展示した「ウェルキャブ・コンセプト」というポルテをベースとしたコンセプトカーについてお話しします。市販されているポルテは左側だけがスライドドアになっていますが、この車は右側もスライドドアに改造して、車いすに乗ったまま、前向きのまま横スライドリフトで運転席につける車です。コンセプトカーではなくて、なんとか市販車として出したいというのが、私たちウェルキャブに関わるものの切なる願いなのですが、残念ながらベース車がありませんので、まだコンセプトの状態のままです。

ポルテ車内の写真この車の室内です。下肢障害をお持ちの方の運転される自操式車両ではハンドルは片手で廻すのもですから丸い必要はありません。乗り降りの邪魔にならないことも考えてこのような1本バーになっています。アクセル・ブレーキは通常はペダルの動きをワイヤーでつないだだけなので操作力が重く、脊椎損傷の方はまだいいのですが、頚椎損傷の方では運転が出来ません。このコンセプト・カーでは全てを電気制御とし、非常に軽い力で動くようになっていますから、力が出ない方、指先が不自由な方でも運転できるようになっています。

アメリカでは後改造でジョイバンという自操式の福祉車両があります。ラジコンと同じでレバー1本で前後左右、運転が出来ます。ハンドルやアクセル・ブレーキをモーターで動かし、そのモーターをレバーで制御するもので日本にも数台輸入され使われています。指先1本で運転できるわけですから究極の自操式福祉車両といえます。構造的には現在の技術で十分可能ですが、走る・曲がる・止まるという運転の基本性能にかかわりますから、信頼性の確保が出来ないとメーカーでは販売できません。万に一つの不具合も許されないからです。

今後の取り組みについて

今後の取り組み最後に今後の取り組みですが、トヨタはこれまで主に介護式の車両に重点を置いて開発してきましたが、これからは自操式車両への取り組みも強化して行こうと思っております。それから良い商品、使いやすい商品を目指すことはもちろんですが、それを安く提供しお客様にできるだけ負担をおかけしないようにしていきたいと思っています。また「もっとやさしく、あなたのそばへ」のキャッチコピーの下、もっとウェルキャブを身近なものとしていつでも実車が見られるように努めていきたいと思います。

最後に自動車工業会の福祉車両ワーキンググループの取り組みのお話しをします。
お手許の「ともに道をひらく」は日本自動車工業会で作っている広報冊子です。福祉車両のガイドブック的なもので、福祉車両を取り巻く現状や様々な福祉車両の種類などを紹介しています。消費税が免税になるなど税制上の優遇措置や助成措置・貸付制度などについて、また海外の福祉車両の現状も紹介しています。欧米では法律の整備も進み、障害を持った方に負担が掛からない制度がかなり普及しています。また国や州によっては福祉車両に全額補助が出るところもあります。日本の場合は自操式福祉車両に対し多くの自治体では10万円しか補助がでません。
こういった現状に対して、日本自動車工業会としても行政に対して助成拡充などを働きかけています。メーカー各社は商品の部分で競争しているわけですが、この分野では協調・協力してお客様のためになることを実現していこうとしています。今年は自操式福祉車両の総重量制限の緩和を実現しましたが、課題はまだたくさんあります。行政・省庁の壁は厚く、時間はかかるでしょうが粘り強く活動していきたいと思います。

 モーターショーも日本自動車工業会が主催しています。商用車モーターショーは年々来場者が減少していたのですが、今年は〝働くくるまと福祉車両〟というテーマで開催、6日間で24万人の来場と過去最高の来場者数となりました。ご高齢の方や障害をお持ちの方はもちろん、ファミリー、女性の方もかなり増えて良かったのではないかと思っています。
福祉車両ワーキンググループとしてもシンポジウム(テーマ:「バリアフリー社会の実現と私たちのあるべき姿」~福祉車両・交通バリアフリーからみた日本の未来~)とウェルフェアパーク(車いすの体験試乗、メーカー系以外の福祉車両展示など)の2つを企画しました。シンポジウムでは「福祉教育の大切さ」や「アメリカと日本の違い」などについて活発なディスカッションが交わされました。まだまだ日本では施しの福祉レベルで、障害者の人権が確立されておらず遅れていると痛感しました。自動車工業会の活動を通じてわずかでも変えられたらいいなと思っています。
トヨタ自動車があるいは自動車業界が福祉の世界を動かしてゆくことは難しいと思いますが、福祉車両を通じて世のため人のために少しでもお役に立てればと今後とも頑張って行きたいと思っています。

最後になりました。この21世紀、ITがものすごい勢いで進んでいます。居ながらにして沢山の情報が瞬時に手に入ります。家の中で臨場感溢れる美しい景色が味わえます。しかしそうした時代だからこそ余計に友達にじかに会いたい、話しをしたい、その場の雰囲気に浸りたいと思うのではないでしょうか。その為に移動はいつの時代にも欠かせないものです。JR、航空機も素晴らしいですが、車はドアtoドアの最も優れた移動手段だと思います。ご高齢の方や体に障害をお持ちの方にとっては更に有用なものです。これからはお客様のご期待を上回る、感動を与えるウェルキャブをお届けできるよう勤めてまいりたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
本日は本当に長い時間お話しを聞いていただきまして誠にありがとうございました。(拍手)

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