「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2004年4月 定例会の報告
「全国の聴導犬認定第1号、美音ちゃんと暮らす」
松本江理様のお話し

松本江理さんと日本で第一号となった聴導犬美音ちゃん(♀)は、JATA4階会議室の正面に一緒に着席されました。美音ちゃんは持参した専用ブランケットに〝伏せ〟の姿勢で松本江理さんの講演中リラックスし、時々可愛いいびきをかいて笑いを誘っていました。
松本江理さんを正面に右手には手話通訳の方が2名着席され、耳の不自由な参加者のためと松本さんへの質問などの通訳をしてもらいました。左手のテーブルの上にはTVモニターがあり、美音ちゃんとの生活ビデオを映していただきました。

松本江理と申します。一緒にいるのが聴導犬のミオです。〝美しい音〟と漢字で書いて美音(ミオ)という名前で聴導犬という仕事をしています。最近は聴導犬という言葉も少しずつ広まってきましたし、どんな仕事をする犬かということを小さい子供でも知ってきたかなと思っています。聴導犬を漢字で書きますと〝聴こえ〟〝導く〟と書くのですが、有名な盲導犬は〝目の見えない人〟を〝導く〟犬と書きます。聴導犬は〝聴こえ〟に〝導く〟犬と書きます。

「聞こえない」という事

私は二十歳を過ぎてから聞こえなくなりましたので、皆さんに理解していただけるくらい普通に話せているのではないかと思います。でも自分の声もほとんど聞こえませんし、今私を紹介していただいた松本高行さんの声もほとんど聞こえません。聞こえないということは人の声が聞こえないだけではなく、生活の中でのいろいろな音が聞こえないことです。当たり前なんですけれども、皆さんは聞こえるので当たり前に入ってくるいろいろな音が、私には入らないということです。私の場合、以前は入っていました。入って聞こえるのが当たり前だった生活から聞こえなくなり、それまでは当たり前に出来ていた事が出来なくなりました。出来ない事がすごく増え、又恐(こわ)いという思い、不自由な面などをいっぱい持つようになりました。

聴導犬とは?

簡単に言いますと聴導犬は私たちに〝音〟を教えてくれます。私たちが必要と思っている音を訓練で犬に教え、その音が生活の中で聞こえてくると、犬が気付いて私に教えてくれる、そのような仕事をします。仕事の様子のビデオを用意してきたのですが、時間がもったいないので、ビデオは休憩の時に見ていただく形で、最初は私の言葉の説明でイメージを膨らませていただきたいと思います。

音を教えてくれるのですが、どうしてこの〝聴(ちょう)〟という時を書くのか、聴こえないという意味の〝聾(ろう)〟の字を使って、〝聾者〟を〝導く〟犬という漢字を書かないで〝聴こえ〟に〝導く〟犬と書くのかなと私も以前は思っていました。でも美音と生活をしてみて、聴導犬が教えてくれるのは音だけではない、私が失ってしまった、聴こえていた時の生活、聴こえていた時の安心感をくれるのだ。だから〝聴こえ〟という状況、聞こえていた状況に私を連れて行ってくれるのだから、聴導犬という名前がついたのかなぁと思うようになりました。それは美音と一緒に生活してみて初めて分かったことでした。

美音との生活

美音は私の生活の中でいくつも音を教えてくれます。朝皆さん目を覚ます時、どんな方法で起きるのでしょうか。ほとんどの人が家族の方に優しい声で「起きなさァい」と言ってもらっている人がいるかも知れません。大抵の人が目覚し時計を使い、枕元でジリジリとなると目を覚まします。どんなに眠っていても耳は働いているのですね。寝ていて目を閉じていても、頭の中は休んでいても、ジリリリリとかピッピッピッとか、色々な目覚し時計の音が入ってくると耳は働きます。そして〝あっ、聞こえた!〟って目を覚まします。それができなければ目覚し時計の意味がない訳ですね。そうやって皆さん朝起きていると思います。家族の人の声の場合も同じですね。ゆすってもらわなくても隣の部屋から「もう起きたら、遅れるわよ!」という声で起きる事ができます。
私たちはその声も音も入りません。以前は音を光や振動に変える機械を使って生活していましたので、目覚ましの替わりとして枕の下に板を敷き、それが時間になるとブルブルっと揺れて起こしてくれる機械を使っていました。皆さんもそうだと思うのですが、夜寝た場所と朝目を覚ます場所が同じとは限りません(笑)。ここで寝てたはずなのに違った場所に頭があるということは往々にしてありますよね。その振動の板は私の頭につれて動いてはくれませんので、結局は起きる事が出来ないで失敗してしまったり、失敗するんじゃないかと思って安心して眠れなかったりという状態でした。

でも今は美音が一緒なので変わりました。美音は目覚まし時計の音が聞こえると、私より先に目を覚まし、そして私のベッドに飛び乗って布団をはぎます。お母さんが優しく起こしてくれるのとは違って、(穴堀するようなジェスチャーをしながら)こうやって起こしてくれます。私が起き上がって「ありがとう、おはよう」と言うまで、布団をかぶってもかぶってもその繰り返して起こしてくれます。最近は布団をはぐということをこの子はしません。なぜかというと、ちょっと重くなり過ぎたので、ベッドに飛び乗った衝撃だけで私は目を覚ます事ができます(笑)。ちょっと重くなった事でこの子は仕事が楽になったのですね(笑)。そうして私の1日が始まります。

私は主婦なので台所にいる時間は長いです。また子供の世話をしている時間も長いです。台所にいてお湯を沸かす。またはファックスが来る、電話が鳴る、誰かが遊びに来てドアのチャイムを鳴らす。それはいつ起こるかわからない音です。やかんを火にかけても、いつお湯が沸いてピィーっと鳴るのかわかりません。美音と生活する前は、お湯を沸かせばいつもいつも気にかけていました。時々見ては湧いてないかな?大丈夫かな?と気にかけていなければなりませんでした。またお友達が来る約束がある時は、まだ来てないかな?まだ大丈夫かな?といつもいつもドアを気にかけたり、窓から外を見て玄関に立っていないかどうか確認する必要がありました。聞こえる人だったら他の事を考えていても、他を見ていても、聞こえればすぐわかる事です。でも聞こえないのでいつもいつも目で確認する必要があります。目から入る情報は前方の視野だけなのですね。視野の範囲であれば目の前でも10m先でも見る事ができます。けれども視界からちょっとでも外れるとたった50cm後ろでも、何かが起こっても私たちにはわかりません。いつも振り返り何かを気にかけていなければいけない生活をしていました。

でも、、、(ここで下でリラックスしている美音ちゃんを見て)美音はいびきをかいているみたいね(笑)、足に振動が伝わってきました(大笑)、、、(美音ちゃんは専用ブランケットの上でゆったりとお休みしていた模様です)。私よりも厚かましくて、こういう場所でも寝る子なんです(笑)。皆で大笑いの後話が元に戻りました、、、

美音がいるから・・・

美音と一緒に生活するようになり、私はヤカンを火にかけてから忘れてしまって子供と遊んでいても、お洗濯物を干していても、トイレに入っていても、美音が私の替わりに聞いてくれます。聞こえると私の所に教えに来てくれます。ですからお湯の沸いた音がした時に、私がどこにいてもいいですし、何をしていてもいいのです。勿論寝ていてもいいのです。
機械を使っていた時は、私がその機械を使わなければなりませんでした。いつも機械を持ち歩き、別の部屋に行くときも機械を持って行きました。寝ると決めた時には、光ではなく振動に切り替えなければなりません。たまたまテレビを見ていてうたた寝したりすると、ピカッ、ピカッと光っても分からない時がありました。機械の時は〝別の部屋に行く〟と決める、〝寝る〟と決める、そんな生活が求められていたのです。でも実際には無理です。トイレに行きたいと思って急に行くこともありますし、雨降ってきたと思ってあわてて洗濯物を取り込みに行ったりする時は、機械を持ち歩くのは困難でした。
でも聴導犬の美音は違います。私は何もする必要がないのです。聞こえていた時と同じ様に自由にしていて良いのです。必要な時は美音が来てくれるのです。美音が来てくれるから私はどこにいてもいいですし、何をしていてもいいのですし、どっちを向いていてもいいのです。  
必要な時に美音が来てくれる事は、音を教えてくれることは当然なのですが、それ以上にいつ音が起こっても美音が来るから大丈夫、私は何をしていても大丈夫なんだと思えるようになれることでした。一日の中で美音が実際に私に音を教えてくれる回数は、そんなにたくさんはありません。お湯だって夏場は沸かさないですし、お料理も手抜きして一生懸命やらなければキッチンタイマーを使う回数も多くありません。お友達など誰も来ない日もあります。新聞の集金も毎日は来ません。1日に1回もドアホンが鳴らない時もあります。夜寝る時に、今日美音は何回私に音を教えてくれた?と思う日もあります。
でもその一日を私が安心して生活できたは、必要な時は美音がいるから私は聞こえないけれども大丈夫、という安心感を持って生活が出来るようになったのは、美音のお陰なのです。美音がいなかった時と比べて、私は家の中を自由に、気持ちにゆとりを持って生活ができるようになりました。

育児も同じです。昔の聞こえないお母さんお父さんは、赤ちゃんを育てる時、夜はとても心配なのです。子供が泣いても分りません。そんな時に紐で赤ちゃんの手と親の手を結んで寝たりしました。そうすると赤ちゃんが手をばたばたさせて泣いた時、自分の手が引っ張られますので気付くことができます。実際は紐で結んでいることで危ないことも起こりますし、熟睡していて分らない時もあります。
美音は子供が泣くと私より先に起きて私を起こしてくれます。ですから安心して私は夜寝ることが出来ました。私の主人は健聴なんです。だから初めて子供を育てる夫婦で、奥さんが聴こえないという場合、普通だったら旦那さんは心配で、夜も赤ちゃんが泣いたらパッと起きて世話をしてくれてもいいと思いませんか(笑)。うちの主人は一回寝ると朝まで起きません。子供が泣いていようが、隣にいる奥さんが聞こえないと知っていても起きないタイプなのです(笑)。ですからあまり頼りになりませんでした。美音が一緒だったので〝美音、よろしくね!〟という気持ちで私は子供を育ててきました。だから今5歳と2歳になった子供たちには「あなた達が無事に育ったのはパパのお陰じゃなくて(大笑い)、美音のお陰よ。美音に感謝しなさい。」と言い聞かせています(笑)。それくらい美音が一緒にいると、子供を生んで育てることも大丈夫なんです。耳が聞こえなくても育てることは大丈夫なんだと決心することができました。

家の外での美音のお仕事

家の中での仕事も聴導犬の大事な仕事なのですが、今回旅行に関するお話を中心にということですので、家を外で聴導犬と一緒ということがどういう事なのかをお話ししたいと思います。
聞こえない人が街の中を歩くとことは、聞こえる人が想像できないほど恐いことです。見えない人が歩くことも大変だと思います。でも聞こえないという障害を持っていることは、実は聞こえる人が考える以上に大変なことがあります。私も以前は聞こえていてそれが当たり前だったので、見えないほうが大変で、どちらかと云うと聞こえないことのほうがいいというイメージを持っていました。実際に聞こえなくなって、『音が入らないことはこんなに恐いことなのだ』と思いました。例え目で確認が出来ても、聞こえないことがこんなに恐いことなのかを初めて知りました。

音は全ての方向から入りますし、目を閉じていても入ってきます。後ろからでも入ってきます。目からの情報は視野の部分からだけです。ですから急に何かを知らせる合図は普通は音を使いますよね。例えばサイレンです。〝どいてください、どいてください〟とテロップで言うのではなく〝ウゥゥゥ~〟というだけで皆どこを見ていても「あっ、サイレンだ!」と理解して道を空けようと思い、何かが起こったのだと気付きます。本を読んでいる人でも分ります。音は無意識の状態の人にも働きかけるのことができるのです。「危ないよっ!」と教えるのも音を使うことが多いです。車のクラクション、自転車のベル、サイレンもそうですし、非常ベルなどみんな音を使っています。音を使うことで皆にハッと思わせ、その後何があったんだろうと考えさせることができます。

その音が入らないということは、危ないよ、何か起こっているよ、という情報が入らないことなのです。例えば今非常ベルが鳴っても私だけ気付きません。そうすると多分私だけ話し続けていると思います。私は皆さんが何かが起こったのではないかとキョロキョロする姿を見て気が付くことができます。もし私が部屋に一人だけだったら、きっと私はそのまま話し続けていると思います。聞こえない人だけが集まっていて、そこで非常ベルが鳴ったとしても他の人は皆逃げているのに、聞こえない人たちだけは分らずそのままいると思います。
逃げるほどの危険でなくても、道を歩いている時に、自分が歩いていることが大丈夫なのかどうかを確認しなければなりません。振り返り、振り返り、車が近づいてないかどうか、自転車が来るのを自分が道をふさいでないかどうか、危ない思いをしないかどうかを確認しながら歩かなければなりません。
実際に美音と一緒に歩き始める前は、危ない思い、痛い思いを何度もしました。車にぶつかった経験はないのですが、自転車にぶつけられて初めて〝あっ、自転車が近づいていたんだ!〟と気付くことがほとんどでした。車などはすぐそばを通って、「ばかやろう」のような唇の動きと顔を見ることがあります。つまりクラクションを鳴らしていたのだと思います。鳴らしていたけど私が分らないで歩いているから、ずっと待っていたんだと思います。私の体のすれすれの所を追い越して行き、それを見て初めて〝車がそんなに近くにいたんだ〟と私は気付くのでした。聞こえる人でしたらクラクションを鳴らされなくても、車が近づいてくる音で分りますよね。無意識に自然と除けることができます。でも私たちは自然に危険から身を守る方法が、聞こえる人に比べて少なくなっていると思います。

聴導犬の美音と一緒に歩いていると、ひとつはクラクションや自転車のベルなどが鳴った時に教えてくれるという仕事をしてくれます。ですから歩いていて危ない思いをすることが減りました。この子も経験を積んで実際に車のクラクションが鳴らなくても、近づいてくる音で分るようになり、最近はクラクションが鳴ってなくても私に飛びついたりまわり込んで教えてくれます。体がちょっと最近重くなったので(笑)、飛びつくのが大変なので、最近は急に私の体の前に回りこんで進む道を塞ぐようにして私に教えてくれます。そうすると自然に私は除けることになるので、道にスペースができるます。ですから美音がいつも車道側を歩きます。きちんと歩道がある道でも自転車が走って来ますし、場合によってはバイクが歩道を走ってくることもありますので、その時も美音が教えてくれるので、私は前を見て歩くことができるようになりました。以前は前を見て歩く時間よりも、後ろを見る時間のほうが長いのではないかな、と思う位に後ろを気にかけながら歩いていました。美音のいる今は大きく変わりました。

〝危ないよ〟と云う音を教えてくれる事の他に、もうひとつ美音は〝私が聞こえない〟という目印になってくれます。私が一人で歩いていても、私が聞こえない人だと気付く人はいらっしゃいますか? ましてはこのように普通にしゃべっていたら誰も気付いてくれません。聞こえない友達と手話を使って話していれば〝?!〟と思って気付いてもらえるのですが、私だけが歩いていて気付く人がいたらすごいと思います。私は補聴器は運転以外には使わない時が多いのですが、補聴器は見えませんし、声も普通に出していますし、気付いてもらえることはほとんどありません。
それが聴導犬と書かれたケープをつけた美音と一緒ですと、最近は小さいお子さんでも、聴導犬イコール耳の聞こえない人の手助けをする犬ということが広がってきました。そんな時に皆さんがまず見るのは犬です。私を見る人はいません。まず美音を見ます。〝どうしてここに犬がいるんだろう、変なの着ているな〟。体に大きく聴導犬と書いてあります。〝あっ!あの犬が聴導犬なんだ!〟と気がつくのです。すると隣にいる一見何でもなさそうな人は聞こえない人かもしれないな、ということに気付いてもらえるのです。
この間、美音は仕事はしてません。こうやって寝ているだけなのです(笑、実際に熟睡していびきをかいています)。でも美音は大きな役割を果たしているといえます。聞こえないという障害は、周りから見て分らない障害なのです。例えば車イスの人が、階段の所で困っていれば〝あっ、段差があって困っているんだ〟と周りの人は見て気付きます。〝何かお手伝いしましょうか?〟と言えますし、言えなくてもあそこに段差があることは困ることなんだと理解してもらえます。また、目の見えない方が白杖をついてうろうろしていれば〝もしかしたら道が分らなくて困っているのかな?〟と周りの人は想像できます。
私が電車に乗っていて人が私を見たとしても、私が聞こえないということは誰も気付かれません。ですから皆さんが聞いていることは私も聞いていると思われてしまいます。お買い物をしている時に非常ベルが鳴った時、他の人はそれを聞いてここにいた方がいいのか、逃げた方がいいのかの判断できますし、私もそれが出来ていると思われてしまいます。

美音が一緒にいることによって、あの人は聞こえていないのだと気付いてもらえます。一度こんな経験がありました。実家が両国なので、美音と私は横浜から千葉方面行きのJRの電車に乗っていました。私は座って本を読んでいました。少し立っている人がいる程の混みようでした。一人の男性が私と美音をしばらく見ていてから近寄ってきました。何か言われるのかなと思いました。「どうして犬が一緒にいるのですか?」とか「どんな仕事をする犬なんですか?」「訓練しているんですか?」と聞かれるのかなと予想しました。私たちは予想したほうが唇を読み取り易いのです。何を言われるかなと本を読みながら気にしていました。男性は近寄ってきて私に紙のメモを渡してくれました。紙を渡してくれたことは私が聞こえないことを分っているんだなとまず思いました。メモを読みました。そこには『今この電車の前を行く電車に事故があり、この電車は東京駅で折り返し運転になるという放送がありました』とありました。それを見た時に私はビックリしました。一つには放送があったことが私には分らなかったことです。もし放送があったことが分れば周りの人に何の放送がされたか聞くことができます。もしテロップで緊急放送中と出れば私にも分りますし、内容がわからなくても周りの人に聞くことが出来ます。次にその男性が私に教えてくれたことにビックリしました。自分の乗っている電車が事故に合えば、止まったり、暗くなったりということで、何か起こったといくら本を夢中に読んでいても分ります。その時は周りの人に聞くことが出来ます。また、東京駅でストップしてしまえば、乗客みんな降りますので、私も〝あれ、千葉行きに乗ったつもりだったのに〟と思いながらも、おかしいなと降りると思います。降りてから周りの人に聞くことができます。でも折り返し運転は違います。みんな降りるけれども、また乗ってきますので、私はそのまま乗っていたと思うのです。気付いたら又横浜に戻っていたかもしれません(笑)。
その男性は美音を見て、犬がいる、よく見ると聴導犬と書いてある。そう言えば前にレレビで、聴導犬は聴こえない人の手助けをしていると言っていたな、と彼は勝手に思ってくれ、じゃあ本を読んでいる彼女は聞こえないのだと思っていた所に放送がありました。。自分は聞いているし、周りの人も皆聞いているが、もしかして彼女は聞こえてないのではないか、と勝手に思ってくれたのです。私は何も頼んでいませんし、誰にもお願いをしていません。でも彼は勝手に考えてくれたのです。それで彼は勝手に困るんじゃないかなと思って、じゃ教えなくてはと考えてくれました。でも彼女は聞こえないのだからどうやって教えてあげようか。そうだ、メモを書いて教えてあげよう、という流れを私が頼んでないのにその男性はやってくれたのでした。
何故か、それは美音が一緒にいたからです。私だけが座っていたとしたら、私がどんなに美人だったとしても(笑)、誰も教えてくれなかったと思います。美音が一緒だったから気付いてもらえたのです。それが全ての始まりだったのです。それによって私は助けてもらうことが出来たのです。その経験があってから、美音は私に音を教えてくれることだけが仕事ではない、一緒にいることで〝私は聞こえないんです〟と説明をして歩いてくれている〝必要な時手を貸してください〟とお願いをして歩いてくれているんだ。私が聞こえないことの目印になる大きな役割を持っていることを知りました。
一緒にお買い物に出かけると、私がお願いをしなくても、お店の人は書いて説明をしてくれたり、金額を口で言うのではなく電卓に数字を打って見せてくれたり、私が声で聞いても手振りを使って教えてくれたり、メモに書いてくれたりすることを自然にしてくれるようになりました。それは私がお願いしたからではなく、美音が一緒にいるからなのだと気付いたのです。

美音は最近歳を取ってきましたので、体調が悪くて一緒に出掛けられない時があります。また時人混みの中や、混んでいる電車に乗ることが分っている時は美音を家に置いて出掛けるようにしています。そんな時すごく不安になります。誰も私が聞こえないことを知らないんだと思うからです。言いながら歩くわけにも行きません。いかに美音が一緒にいることが自然に周りにアピールしてくれ、私が安心して歩けるようかということを、一緒に外出していない時に強く感じます。
ですから時々お店でなどで「必要な時は手助けしますから犬は置いてきてください」と言われる事があるのですが〝必要な時っていつですか〟と思ってしまいます。皆さんは〝今日は耳を使わないから家に置いてくる〟とことはされないですよね。今日は何にも聞きたくないし、奥さんの愚痴も聞きたくないし、子供のうるさい声も聞きたくないから、今日は耳の日曜日と耳を置いて来る訳にはゆきません。いつも顔の脇に付けていて必要なときは働くわけです。それと同じなのに「犬だから置いてきてください」「必要な時はお手伝いしますから声を掛けてください」と言われます。電車の放送のように私が気付かない事だってあるのです。だから美音はいつも一緒にいる必要があるのです。

「聴導犬」が認知されるまで

美音と一緒にいたいと思う気持ちは一緒に歩き始めた時からずっと持っていました。でも実際には聴導犬という言葉が知られてきたのは最近のことです。美音と歩き始めた10年前は「聴導犬?って何ですか?」という時代でした。「盲導犬と違いますね。柴犬でも盲導犬になれるのですか?」(笑)「目が見えるのにどうして盲導犬を使っているのですか?」(笑)どう見ても盲導犬ではないし、どう見ても私が見えない人には見えません。電車に乗っている犬、仕事をしている犬はイコール盲導犬だったのです。聴導犬と説明しても分かってもらえませんでした。盲導犬はいいが聴導犬は会社のきまりには書いてないのでダメと何度断られたことでしょう。電車、タクシー、バス、ホテル等みんな断られました。勿論法律もないですし、言葉自体知られて無い時代でしたので、当然だったと思います。 
そんな時には今日皆さんにお配りしているオレンジ色の紙、聴導犬とはこんな犬で、どうして必要なのかを書いてある紙をいつも持ち歩き、ダメと言われるとそれを配りました。ホテル予約をする時は、聴導犬と一緒であることを前もって言わずに、まず予約状況を聞くことにしています。空いていますかと聞き、空いていると言われた後に予約時期を話してから、実は聴導犬という犬が一緒ですと話すのです。最初から聴導犬と一緒と話しますと「部屋はいっぱいです」と言われてしまいます。本当にいっぱいで部屋がないのか、聴導犬がいやで言っているのか私には分かりません。ですからまず部屋が空いているかどうかを聞く事にしているのです。
それでもダメと言われる時があります。美音と一緒に歩きはじめた頃は、JTBの本に盲導犬可という情報が載っていたり、ホームページで載っているホテルが少しづつ増えてきました。そういう所をまず探し、盲導犬OKと載っていたら、盲導犬とは違うのですが私たちにとって同じ様に重要で必要な犬なのですと説明します。説明したくても大抵問合せは電話ですので、実際に自分では説明できないことがほとんどです。予約するのも電話番号しか載ってなかったりします。そこで主人に代わりに電話してもらいます。主人が説明しているのを横で見ながら〝上手に説明してよ!(笑)〟とイライラしながら見守っています。相手がなかなか分ってくれず、「向こうのFAX番号を聞いて!私が説明するから!」ということもあります。このような犬がいるということが分らない人に、聴導犬についての説明から必要性などを説明することはとても大変なことなのです。
私は美音と一緒にいろいろな所に行きました。飛行機にも乗りました。法律が出来る前から飛行機にも乗りましたし、新幹線にも乗りました。駄目と言われてもあきらめませんでした。どうしてかというと、美音が一緒にいるから安心できることを自分が一番よく分っているからです。美音が一緒ではないことがどんなに恐いことかを分っているからです。 
美音と一緒に行ける場所、いけるお店をひとつひとつ増やしてゆきたいと思って歩いてきました。そのような思いを持った聴導犬ユーザー、介助犬ユーザーが少しずつ、少しずつ増えてきています。そして聴導犬のことをもっと知って欲しいという願いが、やっと二年前の身体障害者補助犬法に結びつきました。やっと私たちの犬が法的に認められるようになりました。

旅先にて

今年に入って2回スキーに行きました。美音も一緒に行きました。3回行く予定だったのですが、最初の1回目は子供たちの具合が急に悪くなって断念しました。その最初のホテルは磐梯の某ホテルだったのですが「聴導犬は駄目です、盲導犬だけです」と断られました。そこで法律が出来て認められたことを説明しました。そうすると「小型犬ならいいです」それもケージに入れてならと言われました。それはペットと同じと考えたのでしょうか。ケージにいれたりバックにいれたりしたら仕事が出来ないのですけがと説明をしました。そうすると〝しぶしぶ〟「一緒に泊まっていいです。でもレストランには一緒に行かないでください」と言われました。廊下を歩く時は抱えてくださいと言われました。結局は子供たちのことがありましたので行かなかったのですが、もし行ったとしたら私はホテルで一緒に歩こうとは思っていました。

二つ目のホテルは、某湯沢のホテルでした。名前はホテルとなっていましたが実際は旅館でした。私たち補助犬ユーザーにとって和室の旅館は一番の難関なのです。大浴場、和室、畳の部屋、これらは大抵断られることが多いのです。ところがそのホテルは、当たり前のように「どうぞ」と言われました。あまりにも当たり前に言われましたので、先方は〝解ってないのではないか〟と心配になってしまいました(笑)。行ってみて急に断られたら困ると思いましたが、「どうぞ」と言われているのだから行こうということになりました。心配ですし、冬の寒空に置いておく訳にはゆきませんので、念のため美音のためのバックを持ってゆきました。旅館に到着し、入っていっても当たり前のように「どうぞ」。フロントの人だけではなくて、レストランの人なども皆も当たり前のように「どうぞ」と案内されました。席に案内される時に入り口近くなどの配慮はありましたが、駄目といわれることはまったくありませんでした。

「スキーに行くときはどうしますか?ワンちゃんも一緒に行きますか?」「もしお部屋に置いていらっしゃる時はどういたしますか?」といろいろと心配もしていただきました。私は和室に入るときは、美音は靴下をはかないので、マットを敷いてそこにケージを置いて、そこに置くようにして畳などを傷つけないように配慮をしていますが、やはり毛が抜け落ちることもあるかも知れませんと言いますと、快く「大丈夫ですよ」と言ってくださって、初めて和室の部屋に泊まることが出来たのです。

長時間スキー場に行く時に、部屋に残していきました。その時に旅館のお部屋担当の方(昔は仲居さんと言っていた)が、食事の準備とかで部屋に来た時も「お部屋でいい子にしていましたよ!」と言ってくれました。(聞いている参加者は皆頭をウンウンと嬉しそうにうなずいてしまいました)私も出掛ける前に「部屋に置いていくのでもしかしたら寂しくて人が来ると「クンクン」とか言うかも知れませんが、ほっといてください」と言って出掛けました。お部屋のサービスの方が「ちゃんとケージの中にいましたよ」と言ってくれまして、私もとても言葉には表現出来ないほど嬉しかったです。
その旅館も聴導犬を受け入れるのは初めてだったそうですが、法律がどうのなどの説明も必要なく、私に必要な犬なのだということを理解していてくれ、あれは駄目、これは駄目ということは一切なく、とても快適に滞在できました。そういう所は又行こうと思いますよね。(皆大きくうなずいている)いろいろ言われたところは「二度と行くもんか!」と思ってしまいます(笑)。このような事って儲けにも関係してくるのではないのかなと思ってしまいます。

三つ目は会員制のホテルでした。一緒に行った友人が会員でした。予約状況を問い合わせし、泊まることはOKでした。しかしそこで言われたことは「レストランのご一緒はご遠慮ください」とのことでした。昨年法律が出来たことはできたのですが、その法律では『不特定多数の人が利用する施設に関しては受け入れなければならない』となっているのです。とすると会員制のホテルは、どの様なしばりになるのか解りません。決まった人(会員)だけが使うという考え方があります。ところがどんな会員制ホテルにもビジターの部屋が必ずあるのですね。会員制のホテルにビジターとして行った時はどうなるのか、まだ解決できない面があるようです。それでもいいのでと考えて私は美音と一緒に行きました。到着するとホテルの支配人が出てきまして、「私たちの会員制のグループには、これまでに例がありませんし、実は検討したこともありませんので、今後勉強をして検討したいと思います」と言って受け入れていただけました。同様に「レストランはご遠慮ください」と言われた場合でも、最初のホテルの例とはまったく異なると思います。とにかく「だめ、だめ!」、法律ができたから泊まるのはしかたがないが、何とか理由をつけて「NO」とする姿勢のホテルと、「まだグループとして勉強中です。ですので今回は済みませんがレストランはご遠慮ください。次に向けて検討しておきます」と言ってくださるホテルとでは、私たちにとって全然感じ方が違います。そのような施設の方には、ある委員会(私も委員会に入らせていただいているのですが)で作成し、ホテルとかUD(ユニバーサル・デザイン)施設、他に医療機関などの受け入れに当たって、こんな方法で、こんな事に気を付ければ大丈夫なんですよというマニュアルをお渡しして検討してくださいとお願いしてきました。それによって次は道が開かれるかも知れないと考えています。

聴導犬の受け入れについて

私たちユーザーがいつも思うのは、法律ができたから仕方ない、法律で決められたから仕方ない、という理由で受け入れてくれるホテルや施設が10あるよりも、きちんと法律の内容が解り、また補助犬の必要性を理解し、どうして私たちが普通であれば犬とは一緒に行かない場所などに一緒に行きたいのか、必要があるのかということをお願いしているのかを、きちんと理解して「どうぞ」と言ってくれるホテルやお店や施設がひとつあるほうが、私たちにとってとても有難いです。そのひとつがふたつに、三箇所にと増えて行けばいいのかなと思っています。法律で仕方なく受け入れてくれ、私たちが行っても厭な顔で迎えられる所が10、100あるよりも、補助犬のことを理解してくれ、心から「どうぞ」といってくれる所が1、5、10箇所と増えていってくれる方が次に繋がるのではないかと思っています。
美音とはその法律どころか言葉も知られていない時から一緒に歩いてきて、いかに社会の理解が浅いかということを実感してきました。法律が出来たから全てがOKになる訳ではないということも実感しています。法律が出来る前は、美音はJRに乗るといえば試験を受け、飛行機に乗るといえば試験を受けました。美音の時は前もっての試験がなくなっており、初めて飛行機に乗る時が試験でした。私は航空3社ともに試験を受けましたが、最初に乗る時、航空会社の人が一緒に乗り込みます。何をする訳ではありません。隣の席に座って美音の様子を見ているだけなのです(笑)。もしも試験に落ちちゃうと帰りは乗れませんよという約束の試験なんですが、大阪なら新幹線で帰れますが、北海道の時はだめだったらどうしよう(笑)と不安な気持ちで試験を受けた思い出があります。何をするという訳でなく、周りの人も何をする訳ではないのです。迷惑をかけないかと様子を見ているのですね。テストの一番の目的は、美音が仕事ができるかどうかではないのですね。いかに周りの人に迷惑を掛けないかなのですね。そんなことをチェックしていました。そんな時に航空会社の人に大抵言われるのことに、「迷惑を掛けるのは犬ではなくて、周りのお客様のほうがよっぽど迷惑を掛けていますね。」(笑)食べ物を与えてみたり、声を掛けたり、なでてみたり(大笑い)、よっぽど周りのお客さんの方が迷惑いっぱいですねと言われます。美音がいろいろな所で断られる理由の一番多いのは、他のお客さんの迷惑になるので、と断られることですが、実際に試しに入らせてもらうと、美音は迷惑を掛けないことを解ってくれます。迷惑をかけるのは回りのお客さんか、私たちが一緒に行っている5歳と2歳の子供たち(笑)で、「すいません!」とあやまるのはそっちの子供たちのことなのです。そんな子供たちは5歳児だから、2歳児だからと断られることはありません。でも美音は犬だからという理由で簡単に断られてしまいます。そんな時はすごく悔しい思いをしました。入店拒否をするなら、この子供たちを拒否して(大笑い)と言いたい位です。試しに入れてもらえると決まって「いるのを忘れちゃいますね」と言われます。「いることが大事なんですね」と言ってもらえます。
法律が出来たてからも、私は「法律が出来たんだから入れないと訴えるぞ!」と、ごり押しをすることはほとんどありません。時々腹が立つことはありますけれども、そんな時はさりげなくホームページに載せようかな(笑)と思ったりします。断られた時は皆さんのお手元にある聴導犬についてのカードを渡したり、まだ知らない人がいても仕方がない、法律が出来たことで大きな後ろ盾ができたんだと考えて、そのあと押しをいただいて、一歩一歩美音と歩いてゆける道、乗れる乗り物、遊べる場所、そういう所を増やしてゆきたいと思っています。
美音もこの夏で10歳になりますので、あと何年仕事が出来るかわかりません。聴導犬の場合はまだ引退後とシステムが出来上がっていませんのでどうなるか解りません。一緒にいる間はこの子に無理のない範囲で、いろいろな場所に、この10年で変わったねと話しながら歩いてゆきたいと思っています。やっぱり歳を取って、最近は長距離出掛けたりすると疲れてしまい、家の中の仕事が出来なかったりということもあります。
病院へ行った時は一緒にいるとすごく安心します。名前を呼ばれると教えるという仕事があるのですが、病気だったり具合の悪い時は相手の唇を読み取ることがすごく大変なことなので、美音が一緒にいると呼ばれても教えてくれますのでとても安心です。最近は美音が一緒にいると耳が聞こえないことを理解してくれ、呼びにきてくれたりしてくれます。ですから美音はちょっと楽をしています(笑)。いるだけでいいよね(笑)という状態になりつつあるのですが、それもひとつの大きな仕事だなと思っています。
一見何もしていない、介助犬のように物を拾うとか、扉を開けるとか、車イスを引っ張るとか、見て華々しい活躍ぶりもないし、盲導犬のようにさっそうと誘導している姿もなくて、聴導犬なんていらないんじゃないと思われ、実際に聞こえない仲間の中にもそう思われていることがあります。
たまたま幸運にも一緒に生活することが出来た私は、聴導犬の本当のいい面、本当の必要性を聞こえない人も含めて、一人でも多くの人に知ってもらえるようにお話しをさせていただいたり、書いたりすることが私の役割かなと思っています。そして今まで一緒に歩いてきてくれた美音への感謝の表れになるかなと思い、今日の様にお呼びいただいた時は、子供そっちのけで伺う事にしております。
私は美音が引退後も次の聴導犬と一緒に生活をしたいと思っておりますので、聴導犬ユーザーはまだまだ続くと思います。皆様にお世話になることもまだまだ続くことと思います。今回お呼びいただき、お話の機会をいただいたことに本当に感謝申し上げます。何か私でお役に立てれば嬉しいなと思っております。ありがとうございました。

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