「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2004年3月 定例会の報告
「ハートビル法からユニバーサルデザイン、旅へのアプローチ」
高橋儀平先生のお話し

開催にあたり、当会代表の草薙威一郎さんから高橋儀平先生のご紹介がありました。

高橋儀平先生は東洋大学工学部建築学科の教授で工学博士です。また内閣府障害者施策推進本部参与とうけたまわっています。実際は飲み友達です(笑)。今日はいろいろとお話ししていただきますが、「ハートビル法」と「ユニバーサルデザイン」、それと「観光へのアプローチ」と題して「旅へのアプローチ」のお話しも触れていただきたいと無理なお願いをしております。
高橋先生は他にも神奈川県や埼玉県のまちづくり推進協議会の会長ですとか、「日本福祉の街づくり学会」の副会長もされております。他の県の街づくりや建築の関係でもについてご活躍をされていらっしゃいます。

皆さんこんばんは飲み友達の高橋です(大笑い)。東洋大学の高橋と申します。宜しくお願いいたします。今日は初めてお目にかかる方と、何度かお目にかかっている方がいらっしゃいます。
こちらの建物(クラブツーリズム CHIE HOUSE=多目的スペース)は初めて伺いましたが、とても立派な建物ですね。旅は好きでよくしますし、こちらの近畿日本ツーリスト・クラブツーリズムの小冊子をいつも送ってもらっておりまが、実際にこのビルに入るのは初めてです。
今回のお話しのタイトルはなかなか調整がつかずに決まらなかったのですが、メールのやりとりでは「ハートビル法からユニバーサルデザイン、観光へのアプローチ」と考えていましたが、もうちょっとソフトの面も含めてということで、「旅へのアプローチ」ということで直前に変えさせていただきました。
スクリーン(今回のご講演には資料としてパワーポイントで作成いただき持参いただき、見ながらお話しをお聞きしました)はほんのちょっと前に仕事で久し振りに行きました沖縄の写真です。渡嘉敷島のホエール・ウォッチングをしてきたひとコマです(海面から出ているくじらの尻尾がきれいに映し出されている)。本当はお手元に配布できれば良かったのですが、いつもの事なのですが、直前までお話の内容の作業をしております。
本日は6つ程のテーマを考えてきました。「ハートビル法」につていもお話をしなければいけないと思いつつ、複雑といいますか、大変幅の広い法律ですので、簡単に触れながら、また皆さんが勉強されている「ユニバーサルデザイン」についても私の言葉でお話ししたいと思っております。

自己紹介/活動経歴

最初に草薙さんから紹介をいただきましたが、簡単に自己紹介をさせていただきます。
昭和49年(1974年)に脳性マヒ者のケア付き住宅運動にかかわりました。当時は〝ケア付き〟という言葉はありませんでした。勿論その時には〝バリアフリー〟という言葉について私自身も知りませんでした。運動に入って自分が建築をやっているということから、これはきちっと勉強しなければいけないなということで、仙台、町田、京都など、福祉の先進都市を回りました。特に仙台は福祉のまちづくりの発祥の地でしたので、どんなことをやっているのかということを綿密に調査しました。特にハード面ですが、改修された様々な状況について学生と一緒に実測調査を行いました。資料は今でも手元に残っておりますが、私の大事な宝物です。
1977年、スウェーデンに行ったのは2度目の海外旅行だったのですが、ここで初めて〝ノーマライゼーション〟という言葉に出会いました。当時のスウェーデンは施設解体の真っ只中でした。この時は川口でケア付き住宅の運動をしている関係者5名で行きました。グループ・ホームがスウェーデンに700箇所ほどある時でした。700箇所といいますのは人口800万スウェーデンの規模からしますと、とてつもなく大きな数字といえます。全国各地に作られておりました。
もうひとつは、日本の方はあまり名前をご存知ではないと思いますが、〝フォーカス・アパート〟というものがありました。日本で言いますと〝24時間テレビ〟と同じようなもので〝フォーカス〟という番組がありまして、そこで約4億円程お金を集め、それを全部重度障害者が地域にインテグレーションするための住宅設備の開発に当てていました。そこからできたものが〝フォーカス・アパート〟(70年に入り「サービス・ハウス」となる)と呼ばれていました。スウェーデンの普通の住宅団地では、駅に近い場所に高層の建物を建て、高齢の方や障害を持っている方の住まいとし、段々遠くに行くにつれてフラットにしてゆくやり方でした。訪問する1年くらい前からスウェーデンとやり取りをして、この情報をキャッチしていましたので、これらも併せて見学してきました。それと統合教育の現場、養護学校などを解体する時代でしたので施設を解体する現場も見学してきました。ノーマライゼーションを推進している行政の意欲なども勉強してきました。
行く前は、「福祉の先進国といっても、そんなにうまくやっているはずがないだろうし、かならず何かバリアーがあるだろう」と思っていました。しかし行政のスタッフの方がすごく意欲的で、ストックホルムよりも地方都市のスタッフの方たちがそうでした。新しいことに向けて突っ走る、駄目だったら後戻りすればいいじゃないかという姿勢でした。当時私たちは川口市重度障害者のケア付き住宅を要求していたのですが、随分と状況が違うなという印象を持って帰ってきました。
日本の場合は当時、重度の障害を持っている人たちの入所施設として身体障害者療護施設が1973年に制度化されたばっかりでした。ですから地域の中で、10人程度のアパートのような施設を作るという試みは、ある意味ではとてつもない動きと言えます。当時の厚生省にも行きまして施設課長さんから、「気持ちは分かるけれども、残念ながら、今の制度下ではとてもじゃないが出来ません」と言われたことを今でもハッキリ覚えております。

それからケア付き住宅の運動を経験し、私も結婚して、地元である埼玉県坂戸市で「うさぎとかめ」というボランティアグループの活動を開始しました。現在も細々と続けているのですが、「普通に活動して地域を変える」という壮大なテーマを勝手に抱き運動をしています。しかしこれもカッコいいテーマなのですが、実際にはなかなか難しいテーマです。でも20数年続いています。川口市での経験を経て、「うさぎとかめ」では親も子供も、あるいは本人も、地域の人たちも一緒なって活動するということを始めました。川口市では当事者に対して周囲から支援する運動でしたが、やはり親の介護にたよる中にあって、親や当時の専門家の人たちがバリアーとなってしっていましたので、私たちの中では、親も一緒に変わってゆかなければだめだという考え方をして働きかけをしておりました。それから20数年近く経ちましたけれども、実際には依然として親は変わらないのが現状といえます。
1981年にアメリカの自立生活運動に触れました。この時に初めて草薙さんにお会いしました。航空チケットをお願いしたのです。時々飲みながらその話をするのですが、草薙さんはすっかり忘れているみたいで、一人でさびしい思いをしています(笑)。虎ノ門支店にいらした草薙さんに一度だけ伺って直接航空券をいただいた覚えがあります。そしてアメリカでリハビリテーション法の504条という、これもスウェーデンに行った年に施行された法律ですが、この時は公的な支援がある様々なサービスに対して障害者差別をしてはいけないという、ADAの前身的な法律に触れることができました。

障害者運動をずっとやってきまして、国の批判や自治体の批判をする側で勉強してきたのですが、90年代に、どう言う訳か国の法制度に関わるようになりました。関わるようになってからも、ずっと障害を持っている人たちの動きや活動に触れてきたものですから、国ですとか、あるいは地方公共団体の仕事の中で、時々自治体側に立ちながら、自分たちと一緒に運動している仲間たちが前の席にいるという状況が今よくあります。役所の方々も少しずつですが、今までの私たちの活動を半分理解して、かかわってもらわざるを得ない状況になってきているのではないかと思っています。ここ数年はご承知のように〝ユニバーサルデザイン〟の動きが出てきていますので、そのお手伝いをしております。

先程お話しましたように、1974年に障害者の運動に関わりました。川口市の運動にはその年の6月に加わったのです。夏休みに入り、当時私は大学の助手をしていまして、学生4人と仙台を調査に行きました。仙台に行って驚いたのは、市役所はほとんど動いてないということが分かったことです。先日久し振りに仙台市に呼ばれてお話をしてきたのですが、勿論その当時勤務されていた方はほどんどいらっしゃらなく、一人だけその当時仙台の広報課にいて、福祉のまちづくりを広報でPRしたという、もうすぐ定年になる方がいらっしゃいました。
1969年12月に身体障害者の生活圏拡張運動が、東京では生活圏拡大運動と呼んでいましたが、仙台では拡張運動という名称でスタートしました。2年後の1971年に市民の様々なグループからサポートを受けるようになりました。そしていくつかのグループが合体して〝福祉のまちづくり〟という運動に名称を変更して行きました。その時に朝日新聞の厚生文化事業団で作られたスライド160枚のひとつに〝みんなのまちづくり〟という表紙がありました。私は後から探して出してこのスライドを見たときに大変驚きました。
当時は様々な圧力が掛かりましたが、NHKやいろいろなマスメディアが仙台の福祉のまちづくりをつぶしてはいけないとPRされ、いろんな意味で全国に飛び火して行きました。スライドの一枚目は、三越が最初に改造して作った障害者用トイレです。デパートとしては初めてだったと思います。今でも時々見られますが、ステンレス管のがっちりした手すりを設置した身体障害者トイレです。当時はまだ縦手すりはありませんでしたね。このようなトイレが少しずつ設置しはじめられました。
当時のエピソードで面白いのは、仙台の運動を推進していたボランティアの学生たちが、夜中に鉄板を持って街に出かけて行き、当時は歩道と車道との間に約20cmの段差があったのですが、そこにその鉄板を敷いて帰ってくることをやっていたという話を聞きました。

現在のハートビル法と交通バリアフリー法について

では、今日のメインテーマのひとつであります「ハートビル法」とは何かということをお話します。
本日参加されている方の中に大まかにハートビル法を説明できる方はいらっしゃいますか?(参加者に挙手をしてもらい、8割以上の参加者が知らない様子であった)
名前は聞いたことはあると思います。あるいは交通バリアフリー法はご存知だと思いますが、ハートビル法は交通バリアフリー法の6年位前に出来た法律になります。2002年7月に改正されました。改正された理由は、交通バリアフリー法にかなり強い影響を受けたということになります。

現在のハートビル法についての要点を簡単にお話しいたします。
交通バリアフリー法はご存知のように、新規で作られる車輌や駅舎、船舶といったもの全て一定のバリアフリーについては義務となります。ハートビル法に較べますとかなり重く義務化されています。ハートビル法は当時義務化されていませんでした。全て努力義務です。実は義務に近いものが都道府県の福祉のまちづくり条例であったのです。但し、自治法上の福祉のまちづくり条例ということで、整備しなければならないとなっていましたけれども、建築基準法とは違いましてそれを守らないと建物が建てられないという条例、法律ではなかったのです。そのために、とても良い福祉のまちづくり条例がたくさん自治体で出来てきたのですが、残念ながらうまく適用されていかないというような状況になっていました。
現在首都圏の自治体で条例を施行している所では、大体5割から7割くらいの福祉のまちづくり条例の適合率です。ハートビル法は努力義務なのですが、2000年に、交通バリアフリー法が制定されて、いよいよハートビル法を義務化しなければいけないといった時点で、2,000平方メートル以上の建築物を対象に国が調査しました。その調査結果は、新聞報道によりますと7割位といわれておりますが、実際は6割強位の建物で、一応当時のハートビル法の基礎的基準を満たしていると言われておりました。しかし実際には利用する側から言うと、部分的な整備基準の遵守はあっても、実際にはなかなか使いづらいということが現実でした。
この2,000平方メートル以上というのは、1994年の最初に作られた時の努力義務の範囲の中で、都道府県知事がハートビル法の基準に沿って、行政的な指導、助言、あるいは指示をしたりできるものが2,000平方メートル以上ということです。
今回の改正では、その2,000平方メートル以上をまず特別特定建築物と呼びまして義務化をしました。利用円滑化基準への適合です。この義務化というのは建築基準法とまったく同等な質を持っていますので、2,000平方メートル以上の不特定多数、あるいは高齢の方ですとか、障害を持っている人たちが主として利用するものにつていは、それをハートビル法に適合させないと建築物の許可がおりないことになり、建てられないことになる法律になりました。先ほどもお話しましたように、契機となったのは交通バリアフリー法でハートビル法で新規の建築物が義務化されたことになります。
交通バリアフリー法はもうふたつ特徴があり、二つ目は既存の施設も改善しなければいけないという努力義務が課せられたのです。
3つ目は、市町村で交通バリアフリー法の基本構想を立案することが出来ることです。これは努力義務ですけれども、今それに従って国土交通省が様々な各地方公共団体にアドバイスをしています。既に150箇所以上で、基本構想が立案されているかと思います。すこしずつ国が定めるもの、地方公共団体が責務を持って行うものという区分けが出来たわけです。
今回のハートビル法もこのような動きになっています。現在は基準については、利用円滑化基準という、守らなければいけない基準と、それからもうちょっとレベルが高い利用円滑化誘導基準とふたつの基準になっています。
こちらの利用円滑化誘導基準を満たしますと、建築物の容積率が最低でも1割、例えば2,000平方メートルであれば2200平方メートル以上の建物が建てられ、更に建築基準法で容積率の特例が認められていますので、そうすると上限がないような容積率のものも可能だということになります。ですから今回のハートビル法の大きなメリットというのは、認定建築物を受けることによって同じ敷地の中に非常に大きな建築物を建築することが出来るが段々少なくなって、建築確認の許可と同時に少なくとも10%の容積率アップが認められるという、建築主にとって非常に大きなメッリトがあります。

改正ハートビル法について

それから、今日のお話しに関連したことを話します。今日はここにホテル業界の人はいますでしょうか。いなければ勝手なことを言わしていただきますが(笑、皆の視線は京成ホテルの秋元さんへ向いていた)、実はハートビル法を改正しようとしたとき最初はホテル業界が抵抗勢力だったのです。すこしずつ代表の方も柔軟になってきまして、国土交通省誘導基準に、名称は車いす使用者用客室、便所、それに浴室などが加わりました。従来のハートビル法の特定施設、敷地内通路、トイレ、エレベーター、階段、廊下などに新に追加する事ができましたが、大きな改正部分であります。これは当事者団体がかなり強くロビー活動をしていましたので国を動かすきっかけになったと思います。
次に、建築物の対象範囲が格段に増えた事です。学校、事務所、共同住宅、工場といったものがハートビル法の対象に加えられました。以前はこの4つの建築物は含まれておりませんでした。それから既存の建築物は交通バリアフリー法と同じように、努力義務ではありますけれども、改修に努めなければいけないということが加えられました。また、修繕、模様替え、例えば最初にスーパーとして作くれば後は自由に改修して違う用途になってしまう、これらのことにも法律上網が掛かるようになります。

そして大事な事は、地方公共団体が更にハートビル法の適合命令、義務化する範囲を増やすことができるようになりました。例えば学校、事務所、工場など新に加わったものの大半は努力義務なのですが、自治体によってはこれを義務化してゆくことが認められることになりました。また、整備基準を強化すること、ユーザーから見るとあたりまえのことができるようになりました。ですから私たちの理想とすれば交通バリアフリー法で、地域のバリアフリー化の基本構想をたて、基本構想を立てますと道路、あるいは駅舎、あるいは様々な移動する乗り物ですとか、そのまわりにあるものはすべて義務化されます。これが交通バリアフリー法の大事なポイントなのです。この義務化される部分にハートビル法対象の建築物をプラスして、一体的に整備をされるような仕組みが作られなければいけません。そのように運用されることが、おそらく二つの法律の一番いい所なのです。しかし、実際には縦割りでなかなかうまく連繋が取れていません。私も色々な自治体の仕事をさせていただいておりますけれども、表現は悪いのですが、お互いに責任を回避する現状が見られます。

それと、従来は都道府県あるいは政令市あたりまでがアドバイスをする機関でしたが、建築基準法と同じだと言うことがありまして、建築主事を置く市町村、あるいは特別区は適合命令が出せる、許認可権を持つというところまで進んでまいりました。これは大きな前進です。ですから現行のハートビル法がこの適合命令といいますか、建築確認法令と同じように運用されて行きますと、相当のレベルのバリアフリー化が推進されるはずなのです。新規の建物は勿論、それから問題になっていますのは既存の建築物でありますけれども、ここの部分についても少しずつ前進するはずです。〝はずです〟という表現しか今はできませんが(笑)。

次に改正ハートビル法の整備対象と基準についてお話します。
スライドにありますように、特別特定建築物についてお話します。国の法律では2,000平方メートル以上となっていますが、これを見ますと、ほとんどの公共的な施設、公益的な施設、全てハートビル法の建築物としては網の目が掛かっていることになります。盲学校、聾学校、養護学校、病院、診療所、劇場、映画館、集会場、公会堂、百貨店、マーケット、ホテル、旅館、保健所、税務署、それに今まではなかったのですが老人ホーム、入所施設も入っていますし、公衆浴場、飲食店、郵便局、理髪店、クリーニング店、公衆便所などあらゆる生活に密着しているものはほとんどがハートビル法による整備義務対象になっています。いま含まれていないのは残念ながら、既存の建物であると言えます。
ハートビル法の中で、基本的な整備要件とは敷地に入ってからということになります。道路は交通バリアフリー法等で指示されていることになります。敷地に入り、玄関に入って、受付、エレベーター、階段、そしてこのスライドでは劇場を想定していますが、客席に至るまでというようなことになっています。実は楽屋だとかステージは含まれていません。客席も実は明確には入っていません。本来であればこちらまで入ることができなければいけない訳ですが、ハートビル法と同時に作りました、ハートビル法の設計標準というものには考え方とか運用の仕方が詳しく説明されていますので、後で読んでいただきたいと思います。 
その中でハートビル法を補完するように、例えば客席、あるいは楽屋裏、あるいはステージにもどこへでも行けなければいけないのだよ、客席の中でも、例えば聴覚障害を持っている方への磁気ループを一定の場所に特定化しないで、使用者にとってあらゆる選択枝が必要なんだよということを、設計標準の中に書いています。

先に進みますが、東京都の場合、付加条例を昨年の12月24日に公布しました。ニュースでご存知の方もいらっしゃるかと思います。東京都の付加条例は全国的には、石川県が一番最初でしたので、2番目ということにまちづくり条例を持っています。建築基準法の中には地方公共団体が独自に定めることの出来る施行条例というものがあります。東京都の場合は安全条例といっていますが、福祉のまちづくり条例に即して大変厳しいのです。通常ですと福祉のまちづくり条例が80cmの出入り口があればいいということになっているのですが、東京都では1mとか、建築主にとっては大変厳しいようなものがあちこちにあります。
その東京都が思い切って、ハートビル法を更に強化して行こうということで議会の合意を得ました。ひとつは特別特定建築物の拡大があります。先ほど共同住宅、学校などは義務化にはなっていないとお話ししましたが、保育所も実はなっていないんですね。小さなお子さんがいらっしゃるということもあって、それからスポーツ施設もそうだったのですけれども、東京都は福祉のまちづくり条例に合わせてゆきたいという意向がありまして、共同住宅も居室の中までは至らないのですが、その居室の玄関までは義務化をすることを掲げています。
そしてもうひとつは、対象規模を引き下げています。国の法律では2,000平方メートル以上が、義務化されるている訳ですが、東京都は全部で四段階の整備対象区分を設けました。ひとつは全ての規模を対象とする区分です。ハートビル法では努力義務であった建築物でも東京都では義務化したものがあります。病院、官公庁舎、社会福祉施設など、不特定多数の方が利用する施設については全ての規模を対象とすることにしました。次に規模別に福祉のまちづくり条例の整備基準と同じ500平方メートル、1,000平方メートル、2,000平方メートル以上と3つの区分を設けました。一番多いのは1,000平方メートル以上なんですが、劇場、映画館、集会場、展示場など大体一般的なものです。500平方メートル以上については、更に生活に密着した施設ということで、一般販売店やさまざまなサービス施設、診療所、飲食店といったものが対象です。但し、外食産業のチェーン店には500平方メートルを切るものがあります。495平方メートルとか、条例の網をくぐることをしている所もあります(笑)。
そして整備基準を強化しています。例えば利用円滑化基準の廊下の幅が120cm以上なんですけれども、都は140cm以上ですとか、あるいはスロープですとか、特に東京都は子育て関係の支援を一生懸命やろうということで、この部分について積極的に展開をしています。
以上が東京都が付加しているものです。都のホームページを見ていただくと詳しい事が載っていますので後ほどご覧になっていただければよろしいと思います。

ハートビル法における整備基準

話しを元に戻しまして、基準について簡単にご紹介したいと思います。ハートビル法の名称は「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」と長ったらしいものです。身体障害者等とか高齢者と入っているのですが、検討の過程で私たちが要望したのは、その〝等〟はどういう人たちを指すのかということで、少なくとも障害者基本法にのっとった障害を持っている人たちとしたいということがあります。それからさらに、日常生活に影響が出るような移動ですとか、利用に支障のある人たちはその〝等〟には含まれているということを法律を作る審議会で議論しました。一応大きく解釈すれば私の理解ではすべての人が入っているはずです。ですから、市町村の担当者が、いやそれは違うと言いましたら、国土交通省に文句を言ってください。

ハートビル法の新たな基準の中で非常に大事なことは、いままではそれぞれの施設でトイレを整備するとか、階段を整備するとか、エレベーターを整備すると、建築の専門な用語では単位空間というのですが、この単位空間ごとに一応整備されていればそれで良かったのですが、今度はそれらの単位空間をつなぐ経路が十分整備されなければだめだよということになりました。そして、利用する単位空間を「利用居室」という言い方をします。建築基準法の居室は、住宅で言いますと、キッチン(トイレは含まれていません)、浴室、ダイニング、リビング、寝室などをいいます。ハートビル法では浴室もはいっておりますし、トイレも入っており、利用居室といいます。
誘導基準では車いす使用者の客室までも円滑な一経路を確保しなければいけないということになっいています。例えば車いすの人たちが利用できる駐車場があって、既存の建築物の3階にあるトイレを改修したとします。当たり前ですが、そのトイレまでは行けるようにしなければいけないということです。但し、既存建築物の場合はその経路上にエレベーターが設置されていない場合でも、最低1台の車いすの使用者が利用できる階段昇降機(リフト)を設ければ一応経路と認めてよいということになっています。このように厳しくなった点と代替的な対応を認めています。
その他の基準は大体地方公共団体が標準的に持っている福祉のまちづくり条例整備基準と同じです。出入り口は90cm以上ですとか、廊下は120cm(東京都は140cmですが)などです。
もうひとつ、地方の福祉のまちづくり条例とは少し違っているところがあります。視覚障害者用の誘導用ブロックについては若干緩和をしています。実はハートビル法でも「ブロック又は音声等の誘導」というものが従来からありました。そして視覚障害者団体との様々な協議で、地方のほとんどの条例の中では、ブロックを優先的に整備することが義務付けられてきました。またその反面、音声もしくはブロックの敷設が無理な場合には、受付などのそばに案内が出来る人がいるなど、人的な対応でよいという状況になっています。
階段あるいはスロープ(傾斜路)があるとしますと、傾斜路の前後あるいは踊り場にもブロックを敷設していました。ハートビル法では原則的にスロープの中央部に敷設となります。連続的に手すりなどがある場合は、今回の改正では、踊り場は除いても良いということになっています。具体的には勾配の20分の1以下の傾斜路の上端に近接する場合は敷設しなくてもよいとなっています。高さが16cm以下で勾配が12分の1以下の傾斜の場合についても敷設はいいというようなことも、決めさせていただいています。

勾配が20分の1以下(5%)というのは、道路でも度々生じます。しかし道路は手すりがありません。そういったことも建築物の中で準用してもよいのではないかということで、視覚障害を持っている人たちの団体と繰り返し協議する中で進めてまいりました。交通バリアフリー法では、階段の踊り場については誘導用ブロックについては緩和することができるようになっています。現在のJR等の整備マニュアル、設計の指針では、独自に持っているものではそこまでやることになっているかとは思いますが。特に交通施設では、一度に非常に多くの人が利用しますので、危険を伴うということもありますので、手すりも標準的に二段手すりが設けられています。この辺が交通バリアフリー法は利用ではなく、移動が重視されているところかもしれません、移動円滑化基準といいますが、ハートビル法の基準と若干違うところです。

設備の整備事例紹介

少し具体的な施設設備事例をご紹介しながら、ハートビル法さらにユニバーサルデザインの発想で建築物を整備していくとどうなるかということをご紹介してまいりたいと思います。

2つ目に(スライドを見ながら説明)、ちょっとサービスですれども(笑)、これは北京の故宮ですね。1974年私が福祉のまちづくりの運動に関わった時その都市に、中国に初めて行きました。10月の下旬だったでしょうか。この写真は最近のものです。当時の社会体制の下で、いいところしか見せないという時代でしたが、その当時聴覚障害を持っている人たちの作業所を見ました。重度の心身障害を持っている人たちの施設は見せてもらえませんでした。
故宮の場合は残念ながらまだアクセシブルな対応にはなっていません。これをどう考えるか、皆さんも検討されていると思いますが、昨年、一昨年、草薙さんのチームが日本福祉のまちづくり学会の大会で観光のバリアフリーということで論文を発表されています。故宮のこの階段をスロープにしますと、皇帝と同じように中央(かつて皇帝の通路としたところ)が利用できることになります。そんなことは中国ではさせないのだろうと思います。
これはディズニー・シーの写真です。バリアフリーでは有名なところです。ちょうど写真に写っている人たちは私の地域の人たちです。
この写真は先日沖縄に行ったときのものです。首里城で、一部は階段、一部はリフトがついています。ルートはちょっと違いますが、ある程度の所まではアクセシブルになっています。トイレにつきましては、いろんな整備状況がありまして、観光地の場合は、どちらかというと、駅の施設と同じような整備状況を求められているのではないかと思われます。
このスライドはちょっと状況が違います。JR横浜の南口側地下に新しくコンコースができていますが、そこにあるトイレです。比較的よく整備されています。サインもちゃんとしていますね。ここは大きな問題はないと思います。一応フルスペックの設備が設けられています。
観覧席関係のスライドです。
こちらはディズニー・シーのブロードウェイ・ミュージックシアターですね。この写真は中央部分の客席が自由に取れるようになっています。常時はふたつの車いす使用者と付き添いの方が座れるようになっています。
こちらはシドニー・オリンピックのメイン・アリーナのスライドです。こちらも同じようなシーン(光景)があります。このアリーナでは、同一階ではありますが、どのような場所でも席が自由に選べるようになっています。スタジアム関係は実はADAの後に、アトランタオリンピックの会場で初めてADAに則りながら改修されました。直前まで改修が行われていたと聞いています。そこで少しずつ客席の対応方法が変わってきています。ADAの場合は通路側の席は、アームレストの部分を上にアップできるようにしておかなければいけない基準になっています。
一昨年のワールドカップの時の日本国内のサッカースタジアムの一例ですが、日本では依然として多くのアリーナが最上階とか非常口(避難用)近くに集中的に車いす使用者用客席が設けられている状況が多いと思います。
これは新潟の施設です。ここでも広いスペースを確保しているのですが、一番上なんですね。どうしてこういう設計をしてしまうのかなと思います。ユーザーからもきちんとコミットしていかなければいけないと思います。
こちらは沖縄博の跡地に設けられたアクアリウムですね。大きなガラス面のある水槽に面して階段状の通路がありますが、スロープと階段両方あります。スロープからも水槽内を覗けるようになっています。こちらは同じホールですが、先ほどのディズニー・シーとは状況が違いまして、中央のコンコースのほぼ中央部分に複数の車いす使用者席(スペース)が設けられています。ただ正面のスクリーンの所が面白いところなのですが(とアナウンスがある)、階段があるので、車いす使用者はそこまで行けない設計になっています。本当にちょっとした工夫が足りないだけでとても残念です。

先ほど宿泊施設についてお話しましたが、最後まで揉めました。ホテル協会の事務局長や、社会資本整備審議会に出ていらした方が、ホテル協会は人的サービスでバッチリやっていますとおっしゃっていましたが、やはりそれだけではいけないのではないかと。改善が困難な日本旅館が沢山あることは私も分かっておりますが、やらなければなrない時代にきているのではないかという話しをしています。

次は先日ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、京成ホテルのスライドです。こちらは別のホテルです。一般的な部屋でUD室とは申しませんが、最低限利用できる部屋といえます。私は浴室や便所に手すりだけでもつけておくことでずいぶんと利用者層が増えると思います。手すりはつけたり外したりできるものでも良いと思います。
これは大阪の堺市にありますビッグ・アイのケースです。ここはどちらかというと、国際障害者年の記念施設として設計されましたので、様々な試みをやっています。ちょっとハード過ぎるかなぁという感じがしますけれども、少しずつこのノウハウを咀嚼しながら、一般化してゆくことが望ましいのではないかと思います。ハートビル法の誘導基準では、車いす使用者対応の客席を200室までは2%以上、それを越える場合は1%プラス2室となっていますが、こうした数字に惑わされずに、可能な限り利用しやすい客室を一般化し増やしてゆくことがユーザーの一番求めていることではないかと思います。
最近では聴覚障害を持っている方々も強い要望を出されています。京王プラザの中でも様々な対応がなされておりますし、いろいろな場で聴覚障害の方々が交渉をおこなっているようです。

観光地で重要なのはサイン(標識)だといえます。これは立体的なサインの海外事例、現在中部国際空港で立案されているサインなどです。またサインで重要なのは、その狙いと意味です。日本では割と点的なサインが多いのですが、やはり連続的なサインでなくてはいけないと思います。このスライドはオーストラリアのメルボルンの有名な観光地、グレート・オーシャ・ロード内のものですが、駐車場から連続的にこのアクセス・シンボルマークがあります。途中まで行くと駐車禁止のようなマークになります。つまりここから先は車いすでは行けないよ、ことを意味しているわけです。さらにすこし進むと階段で降りるようになっているのです。そういうアクセスのマークは非常に重要です。
例えば公園などでも長いスロープがあるとしますと、距離とか、勾配とか、大阪箕面市では確かその勾配と距離を表示しているのがありますが、何%の勾配ですよ、あるいは距離はどのくらいですよ、などとあると良いと思います。もっと良いのは先が砂利になりますよ、階段になりますよ、などのサインを設置することですね。
もちろん利用者は、その先に行っちゃってもいいわけです。お友達がいれば一緒に行ってしまったり、一緒に担ぎ上げて行こうかということも出来ます。数年前、中国の万里の長城に学生と一緒に行った特に、一人の学生が心臓病を持っているので皆に迷惑を掛けるから行かないと言ったんですね。私はすかさず、「ここまで来て行かない手はないだろう」と言って、皆で替わりばんこに順番におんぶして上まで行きました。私も勿論おんぶしました。10m行くとハァハァいいながら交代しましたが(笑)。
つまり、行ってはいけないといういことではないのですが、様々な想定されるシーンをサインで示しておくことは利用者にとって大変重要な手がかりになります。見易さ、分かり易さなども重要です。

次に乗り物です。こちらは沖縄の新しい〝ゆいレール〟です。昨年開通したばかりなのですが、残念ながら15cm程の段差(傾斜の段差解消器は取り付けられているが)がしっかりとあります。観光地などではタクシーとかコンパクトな、いわゆるコミュニティバスといったようなものの方が、鉄道とか大きな乗り物よりも、本当は重要なのでしょうね。皆さんも既にお気付きのことかと思います。

旅へのユニバーサルデザインの展開

ズーッと、施設系のお話しをしてきました。最後に「旅へのユニバーサルデザインの展開」について少しお話をさせていただきます。
改めて申し上げることはないのですが、ユニバーサルデザインの共通の定義を確認したいと思います。ユニバーサルデザインは、『年齢、性別、国籍、個人の能力にかかわらず、可能な限り多くの人が利用できるデザイン』ということです。その考え方、又はそのプロセス、手法だというふうに日本の国内では広く使われているのではないかと思います。行政の場合はそのプロセス、手法をつかさどる仕組みの改善が一番重要です。ですからハードができても、あるいは観光のUDと言っても、それを動かす窓口の人たちだけでなく、企業、旅行社のトップの人が理解していないと、利用者、お客様の所にきちんと伝わっていかないと思います。もちろんひとりのスタッフが一生懸命頑張っていくことが大事なんですが。

私はUDをひとことで言うと、『利用者、人間主体のデザイン』、という言い方をいつもしています。また、「このデザインというのは人の生き方、人の暮らし全般にわたるデザインを意味している」訳です。ですから観光も人の暮らしにかかわりますから、デザイン的にもそのひとつであると言えるのではないかと思います。

旅は非日常的なシーンが多い訳ですけれども、でも「いつも始まっているのです」ということを皆様にお伝えしたいと思います。
旅へのUDのステップということですが。
私の「旅への衝動」は、少し疲れたなぁと思うと、どこかに行きたいなぁと思います。旅への衝動が最初にあるのだと思います。第一ステップと言ってもよいかもしれません。わくわくしながら旅を企画したり、誰と旅行に行こうかとか、本当にホテルは大丈夫なのかなぁ、いつもスタンダード・クラスのホテルしか泊まらないのだけど、デラックス・クラスに泊まりたいな、オーシャン・フロントになるかなぁ、というようなことを期待しながら旅の予約をしてゆきますね。これも大変重要なことだと思います。
第二ステップは現地ですね。旅先です。宿、乗り物、観光地、お土産やさんとのやりとり、いろいろな人との出会い、それらの人の問題が重要になります。それから設備、そういったことが第二ステップになると思います。
第三ステップは日常生活に戻るまでの間で、一緒に旅をした人との語らいや、写真を見たり、整理をするというようなものだと思います。このステップの中には「旅の余韻」も含まれていると私はいつも思います。
そしてその余韻が薄れてくる頃に日常生活に戻ってゆき、再び「旅への衝動」へと向かうのだと思います。
おそらく旅のユニバーサルデザインと言いますのは、そういうようなことを含めた一貫した流れを指すのではないか思います。それぞれの場面を考えながら旅行企画活動を進めているのではないかと思います。ですから、旅行社に予約に来た時からがお客様ではないのです。第一ステップの頃もふまえながら、お客様がどんなことを希望し感じているのだろうかということにも理解を示したりすることが大切ですね。経験豊富なスタッフの方ですと、お客様がカウンターに来たときに、この方がどんなことを求めているんだろうとか、年齢、性別、あるいはグループなのかそうでないのか、満足して頂いているのか、ということを瞬時に理解されてゆくのではないかと思います。このへんは皆さんの方が詳しいのではないかと思います。

旅のユニバーサルデザイン7原則

旅のユニバーサルデザイン7原則を最後にお話しします。
草薙さんにも私の大学でお話しをしていただいたのですが、その内容も意識しながら自分流に勝手に解釈をさせていただきました。
まず「公平性」です。誰でも自由に移動できる、施設が利用できる。そして誰でも自分のペースで旅ができるという「柔軟性」です。
UDの7原則では「単純性」と「認知性」を分けているのですが、ここでは一緒にして旅が分かりやすい、あるいはルートが単純、観光案内が分かりやすい、ということを考えました。ハードだけでなく、人の手助けも必要かもしれません。
失敗へのフォローということで「許容性」、行き先が間違っても対応できるなんてことはないのかも知れませんけれども、あるいは忘れ物が届くというようなこともです。私の例ですと1974年に中国に初めて行った時の話しですが、北京のホテル(北京飯店)に靴下を片方忘れました。行程がわかっていたこともありましたが、次の訪問地の上海のホテル(和平飯店)に送られてきたのです。今でもこのようにされているかどうかは分かりませんけれどが、これは本当に驚きました。
そして「効率性」ということで、ここでは経済的な旅が出来るということをあげてみました。また効率のよいサービスもあるかも知れません。
次に「適用性」です。これはユニバーサルデザインで、全ての人ということ、できるだけ多くの人と書いてありますけれども、旅は特にパーソナルな対応もしなければいけないということで、個人のニーズですとかに柔軟に対応できる必要があるということです。この対応の場合、同伴者の人数の問題もあると思います。時々私も経験します。一緒に来ているのだけれども、同じ乗り物に乗れない。そしてコストがかかってしまうことがあります。
最後に、これは草薙さんから教えていただいたことなのですが、旅は平和じゃないとできないということを学生にお話していただきました。それに私は「感動」という言葉を勝手につけ加えさせていただきました。これは最初の第1ステップのところに旅への「衝動」ですとかがあるのですが、ユニバーサルデザインを進める、あるいはバリアフリー化を図るということですが、考え方ばかりでなく感動がともなわないと出来ないんだろうなと、そのことにより強い意志が働いてくるだろうと思っています。
そうして、旅先での平和、自然や人との出会い、旅への感動、あるいはその人の生きる力が獲得されていくということが大変重要ではないかと思います。

これでお話しを終わらせていただきます。(大きな拍手)

高橋研究室へのリンク:http://www.eng.toyo.ac.jp/~gihei/

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