「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2003年10月 定例会の報告
「すみだ住宅改造勉強会」の竹野留美さんのお話し

理学療法士として地域に密着したお仕事「墨田区社会福祉事業団シルバープラザ梅若」 に勤務されながら、「すみだ住宅改造勉強会」を主催してこられた竹野留美さんのお話です。 理学療法士という未知のお話に引き込まれ、 竹野さんの快活で積極的なお姿の一端をのぞくことができました。

講師の竹野留美さんは、地域に密着した活動である「すみだ住宅改造勉強会」を主催され、ほぼ毎月1回のペースで前回が107回目を実施されました。そのバイタリティーに富んだ体験や、勉強会を始めるきっかけなどを熱く語っていただきました。

竹野さんの自己紹介

お話の始めに自己紹介として簡単にプロフィールを語っていただきました。竹野さんは理学療法士(PT)として、現在は墨田区社会福祉事業団シルバープラザ梅若という、5棟ある都営住宅の団地内にある施設に勤務されています。主に通所の方へのリハビリの指導と、併設している福祉機器展示室の相談員として活躍されています。機器展示室には、車イス、介護用ベッド、お風呂用品、ポータブルトイレ、食器、階段昇降機、リフトなど約500点が展示されています。現在の墨田区の事業団には15年勤務されていらっしゃいますが、現在のシルバープラザ梅若へは新設施設時から4年めです。現在のお仕事の前に、大学病院の理学療法士として勤務された経歴をお持ちです。

理学療法士(PT)ってなんだろう?

竹野さんは「理学療法士(PT)って何だろう?」から話を始められました。理学療法士はリハビリテーション医療の専門職で、国家資格です。この理学療法士制度は今から約40年前にスタートし、現在国内に約30,000人の有資格者がいると言われています。まだまだ充分な数の資格者が確保出来てないことから、その為に学校が整備されてきました。その結果現在は年間に4~5,000名の有資格者が生まれ、理学療法士には若い人が多い傾向があります。最近の就職難時代の中、一般大学卒業者にとっても就職がかなり厳しい時代ですから、大学を卒業してから新たに勉強して資格をとる人も多くいらっしゃるようです。

理学療法士=Physical Therapist(フィジカル・セラピスト)=略してPTと呼ばれています。その他に作業療法士=Occupational Therapist=OT、言語聴覚士=Speech, Language & Hearing Therapist =STがいます。
PTは患者さんの状態に応じた機能回復訓練のプログラムを組みます。現在は、PTの多くは医療機関で働いており、その他に老人保健施設や特別養護老人ホームなどの施設や、訪問看護ステーション、行政、教員などになっています。

PTの資格を取得する為に学ぶことは多岐に渡り、解剖学、生理学、特に運動学、心理学、病理学、臨床医学、薬理学、理学療法学、義肢装具、日常生活動作、検査測定、物理療法学、運動療法、発達心理学、見学実習、評価実習、治療実習などの基礎医学と専門分野です。

PTがどんなことができるかといいますと、運動療法や物理療法を組み合わせて、起居動作から歩行までの基本動作訓練や、日常生活動作訓練を実施します。運動療法(筋力増強訓練や関節可動域訓練や、起居動作訓練、歩行訓練など)と、応用動作訓練として、階段の昇降訓練、溝越えなどがあります。物理療法は、皆さんもご存知だと思いますが、俗に「電気」と呼ばれている低周波や、温熱などによる療法です。ADL(日常生活動作)の中で食事動作や更衣動作などはOTが対応することが多いです。いかに利用者が普通の生活に戻ることができるか、お手伝いすることがPTの仕事です。痛みに対するアプローチも大切な項目です。

PTの最大の武器は動作分析ができることです。
患者さんの歩行を観察して分析し、どこが異常だから何が原因でここをポイントに動くようにするというプログラムを組み立てます。それら実施してもらいながら時々見直して、その人に一番適した方法を考えて訓練を行う仕事です。特にADL(Activity of Daily Life =日常生活動作)の中で、具体的には歯磨き、顔を洗う、着替える、移動動作などのことですが、この移動動作の障害に関する整備が必要なケースが多いです。

PTの仕事の特徴のひとつに、予後予測がある程度できることがあります。これは病気の特性を知っているので、その特徴に合わせて環境整備を行う必要があり、また、予後の予測(どの程度まで回復あるいは悪くなるのか)を行いながら、それを踏まえてアドバイスができます。例えばパーキンソン病患者さんの場合、前方へ突進する傾向がありスロープよりも階段の方が有効な場合が多く、また、進行していくことを考えながらのアドバイスが必要になります。ケアーマネージャーや看護職、介護職の人々は機能評価を含めたアドバイザーにはなりにくいです。

リハビリについて

「リハビリ」という言葉は皆さん良く耳にすると思います。リハビリテーションが正式な言葉で、元々の意味は「再び権利を獲得する」とか、「全人間的復権」などを意味します。このリハビリテーションの起源は、フランスのジャンヌダルクの時代まで遡ります。皆さんが認識しているリハビリ=電気やマッサージのことでないはないことを認識してください。また、リハビリテーションは「治す」のではなく、「最大限回復」を目指すことで、病気→障害→社会復帰(社会参加)を計ることが本来のリハビリテーションです。社会参加というのは概念が難しいですが、元の仕事にもどることだけでなく、自分の居場所を見つけることができることだと思います。

ひとつの例をお話しますと、先日ある行事で久しぶりにお会いした脳卒中の後遺症により、右片麻痺で失語症を伴った68歳の男性のことです。この方は現在、印刷活字を並べる仕事を一部担っています。並行して少年野球の監督をすることで社会参加をしています。この方のように、自分の場所を作ること、これがリハビリテーションの成功事例といえるでしょう。リハビリテーションは病院で治療を受けるというような受け身なことではなく、自らが進んで勝ち取って行く過程なのです。

現状のリハビリテーション医療は、とても残念なことに、なかなか理想通りにいっていないと言えます。現在の医療保険や介護保険制度では長期の入院は大変困難なことであり、長くても約3ヶ月位(削除)を最長として、退院しなければならないのが現状で、他の施設(介護老人保健施設、療養型病床群)へ移らなければなりません。病院勤務のソーシャルワーカーは、患者さんの次の医療期間を探すことが大切な仕事になっているケースが多々あります。きちんとリハビリテーションを継続していくシステムにはなかなかなりにくいのが現状です。PTやOTがまだまだ不足しており、充分でないことも起因していると言えます。もし皆さんが患者さんの立場になった時は、より多くの情報を入手して、取捨選択できる工夫をしてください。多くの患者さんの現状は充分な情報を入手することが困難であったり、一部の情報で満足されていることがほとんどといえます。

また、満足するサービスを受けるためには、お金が必要なことも事実です。医療保険から介護保険への移行にともない、リハビリテーションの診療報酬の低下も見られ、結果的に"ぶつ切り医療"となっており、必要なリハビリが受けられないことが多くなっています。皆さんが当事者になった時は、信頼できる人、ケアーマネージャー、自治体などから必要な情報を入手し、ご自身が取捨選択できる様に対応することがとても大切なことです。

発症して障害が残るような場合には、多くの方は、「どうして自分なんだ、どうして自分だけが、、、」という怒り、落ち込みのあることが特徴です。障害を受容するのは難しく、普通は、落胆⇒否定⇒無関心⇒受容という形で進みます。行ったり来たりもします。その過程はがんの宣告時の受容にとても類似しています。障害を受容しないままに家庭にもどってくるケースが大変多くなりました。以前は入院中にある程度の受容をして在宅復帰ができていたのですが、今は中途半端なまま自宅へもどることも多いです。病院ではゆっくり自分の状況を受け止める時間をくれなくなりました。退院後の生活全般に対する不安を抱えながらもどるケースが多いのです。では、在宅へもどったら、当事者により沿って受容を待ちながら生活不安を解消するようなサービスがあるかというと、なかなかないのが現状です。今は退院したら、まだ回復する可能性があっても、個人の能力に合わせての能力回復サービスではなく、十把一絡げのようなデイサービスなどのサービスしか実際には存在しないのです。もちろんそういったサービスもあるのですが、圧倒的に在宅でのリハビリテーションを継続できるサービスは不足しています。(お話の内容はとても暗く深刻な内容ですが、実際には竹野さんは快活、明快にお話されていましたので、参加者は皆納得し、うなずいて暗くなる暇などなく話に引き込まれていました。)

地域リハビリテーションの概念は、1991年に日本リハビリテーション病院協会などで提唱されました。この地域リハビリテーションの概念はとても大切なことです。

"障害を持つ人々や老人が、住み慣れたところで、そこに住む人々とともに一生安全に生き生きとした生活が送れるよう、医療や保健、福祉および生活にかかわるあらゆる人々が、リハビリテーションの立場から行う活動の全てを言う。
その活動は、障害者や老人のニーズに対し、身近で素早く、包括的、継続的そして体系的に対応しうるものでなければならない。また、活動が実効あるものになるためには、個々の活動母体を組織化する作業がなければならない。
そして何より住民活動にかかわる人々が、障害をもつことや年をとることを家族や自分自身の問題としてとらえることが必要である。"

地域リハビリテーションの目指すところは、本人、家族、近所の人、まわりの人、全ての人、が自分の立場で行うリハビリテーションであり、病院もそのうちのひとつ考えます。現在の医療モデル(病院)から生活モデルと脱却することが大切ですが、なかなか難しいことといえます。病院は特殊な異常な世界です。いかに効率よく治療ができるかが優先され患者の生活は二の次です。また、そうであるからこそ高度な医療技術を実施できるのだと思います。しかし、実際、人はずっと病院に入院するのではなく、「生活」をしていくのです。歩くための歩行訓練から、目的を持った(例えば、トイレに行く、外へ出る、旅行へ行くなど)移動手段のための歩行という価値観の転換が必要なのです。いわゆるリハビリ好きはたくさんいますが、PTの前でしか動かずにあとは家でじっとしている人が多いのです。そうではなく理学療法を受けることは生活を楽にしたり動きやすくしたりするために行うのであって、訓練のための訓練ではないということです。

竹野さんは、時計を見ながら、「こんなに時間がかかってしまって、最後までお話できるかしら、、、」と言いながらテンポ良く快活に話をされていました。本当に時間の経つのがとても早く感じられるほど話に引き込まれてしまいました。休憩をはさんで竹野さんが主宰されている「すみだ住宅改造勉強会」について話されました。

「すみだ住宅改造勉強会」について

平成5年に始めたのですが、皆さんのもっと優しい旅への勉強会もその数年前に活動を開始されたと伺っています。どうして始めたかといいます、墨田区には多くのご高齢の人たちが住んでおり、現在高齢化率は約20%です。当時は住宅改造助成事業の需要が増加し始め、区のケースワーカーからのアドバイスが欲しいとの要請があり、私たちも学習しなければと、事務職・看護職・OT・PTのメンバー約10名で始め、最初は事例の文献を読みあったり、話し合ったりする勉強会をしていました。その内に建築関係の人に声をかけて専門の人たちの話を聞くようになり、口コミで徐々に広がり、仲間が増えていきました。

そんな勉強会の中で今でも印象深く覚えていることの一つに、地域の小学校の改造計画が持ち上がり、無我夢中で行ったことがあります。それはとても貴重な体験となりました。又、国の高齢者向け住宅関連の制度を決めることに関わっていらっしゃり、高齢者や障害者の住宅改造分野の第一人者である野村先生に立体図の描き方を教わったこともありました。野村先生には、先日の第100回記念勉強会においでいただき基調講演をしていただきました。

勉強会では、それぞれのPTやOTのケース報告を聞くことで、自分の体験できない異なった事例を経験できることも有意義なことのひとつでした。勉強会が50回を迎えた頃に、理学療法士学会にこれらの活動報告を発表させてもらったことも思い出のひとつです。また、異業種の人との繋がりも広がり、その中のひとりに皆さんの勉強会の会員でもいらっしゃる京成ホテルの秋元さんがいらっしゃいます。秋元さんにも勉強会で発表してもらいました。その後実際に、私たちが京成ホテルに見学に伺いました。いろいろな人に発表してもらいますが、話してもらうとその人の今まで知らなかった面がわかる事が多くありました。それも人との繋がりの上で楽しみのひとつであったと思います。

これまでに勉強会を"やめたい"と何度か考えたこともありました。特にFAX送信に、その頃は一括登録ができませんでしたので、ひとつひとつファックス番号を入力して発信するので、1時間以上も掛かってしまった時とか、テーマが見つからない時とかに"やめたいなぁ"と思いました。でも、そんな時はいつもメンバーの人々に助けてもらい今まで続けることが出来ました。

勉強会を通じて自分自身の役割を見つけ出したと思う所があります。私は対象者と施行業者の仲介者だと思っています。その対象者が直接業者の方とコミュニケーションを図っても、なかなかその人の思いが通じないことが多くあります。そんな時に私がその方からお話しを伺い、そのイメージを膨らませて、建築士を介して施行業者に伝えて、その人の思っていることを具現化させてもらうことが出来るのです。結果的に、施行業者サイドでもその方法がより理解しやすいなことに気がつきました。こんなことからもそれぞれの立場の人々とのネットワークが出来あがってきました。このネットワークは私の財産であり、それを多くの人々に還元したいと思っています。

勉強会のモットーは、面白いもの(私が面白いとおもうこと)を話してもらうことをテーマにしてきました。つまらないかなと思ったテーマでも面白かったりしたこともあります。勉強会は全てボランティアですので参加無料にしています。会場は区の施設を利用していますので可能なことだと思います。無料で使わせてもらっていますが、これらの活動は区に還元できると考えています。
特徴の一つに、どんな人が参加してくれたか、会の終わりに自己紹介と感想を発表してもらっています。その時の自己紹介のお話しでその人の違った一面が見えることがあります。

「長くこの勉強会を続けてきて気が付いたことは、持続させる最も大切なことは "頑張らない" ことと、それに "報告書を出さないこと" かなと思っています」と語られたことがとても印象的でした。

PTが行う動作分析について

この後に、ちょっと面白い実体験を参加者全員と一緒におこないました。住環境の整備をPTが行うのに、動作分析ができることが強みと言いました。それについて、実際にどんなことかを"いすからの立ち上がり"の動作を参加者全員に実際に体験させてもらったことです。

 「まず普通に立ち上がってください。次に深く座って、からだを前に倒さずに立ち上がってください。」との指示です。ここで参加者全員、「できない」ことがわかりました。「立ち上がり動作とは、座っているときにいすの上にあった重心の位置が、立ったときにはいすの前に動いています。座っている時の重心は骨盤の中にありますが、まず動きを分析していくと、前方への重心移動と上方への重心移動とに分かれます。ですから、上だけに引き上げるための手すりでは役に立たなくて、前方やや上方へ誘導するような手すりが必要になってくるのです。手すりの位置を決めるときにそういった知識が必要になります。座った状態で手が届くところに決めるのは難しくないのですが、"動作を誘導する"ための手すりつけはPTの眼が大事になります。それに動作指示は、いかに重心移動の距離を少なくするかが大事で、お尻を前に出して膝をより曲げるような形をスタート姿勢にすると力が少なくてすみます。」 こういうことがわかり具体的にアドバイスできるのがPTなのですと結ばれました。全員納得でした。

そしてお話しのおしまいに、以前務めていた施設で行った栃木県の那珂川苑(障害者保養センター)への旅の話しをしてくれました。何度か訪れていると少しづつ私たちの必要なものを準備してくれていたり、様々な体験をさせてもらったことなどを楽しそうに話されました。本当に盛沢山な内容を語られ、時間が足りなくなってしまい、勉強会後に持たれた親睦会へ持ち越しとなりました。

質疑応答

質問の時間が少しだけありました。そのひとつに、車椅子を使うより、杖のほうが良いという発言があったが、車椅子が楽ならその選択もありではないかと質問がありました。時間の関係もあり、充分なお話しができなかったと思われた竹野さんから補足説明をいただきました。

パラリンピックの選手のことも出て、若い人とお年寄りでは違うのかなとの発言もあったかと思いますが。高齢者でもパラリンピックの選手でも、廃用症候群は起こります。"廃用"とは、寝たきりなどで身体を使わないでいたためにおこる、筋力低下や関節が固まったり、内臓がうまく機能しなくなり肺炎がおきやすくなったり、血圧の調節が難しくなったり、体力が落ちて、長く動くことができなかったり、床ずれがおきやすくなったりなどのことです。様々な2次的な合併症を引き起こす原因になるので、高齢者でもパラリンピックの選手でも、日々の自分の身体メンテナンス(よくコンディショニングと言います)を行っておく必要があります。

加齢に伴ってどうしても筋力や体力は落ちますが、じっとして楽をしすぎてしまうと、廃用が起こり、結果加齢に伴うよりも早く能力の低下を引き起こします。そのために、車椅子を安易に使うのではなく、できるところは歩いたり立ったりすることが大切です。

話の中では、今までは9割の力が必要だったことを、運動することで、6割の力でできるようにしておけば、かぜを引いたときなどに10割の体調ではなく、7割の体調になったときも、6割の力でできる動作はそのままできます。しかし、9割でがんばらないとできない動作は結局できなくなり、早く寝たきりになってしまいますと話したと思います。これは、私の立場ではどうしてもそう言いたいところで、運動選手が1日休んだら3日トレーニングが遅れるとか、もどるとか言いますが、それと一緒です。運動選手は余力がたくさんあるので、少し休んでも日常生活には支障がないのですが、いつもいっぱいいっぱいで生活しているお年寄りは、動かないことそれ自体が能力を早く低下させる原因になります。パラリンピックの選手も日々のメンテナンスを欠かしたら、50代、60代になったときに後悔する可能性もあります。

ただ、確かに、"歩くことがすべて"的な発想で、その人の移動する手段を渡さないでいることは、罪な部分もあります。そのあたりはPTや医療職としては、能力の維持とQOL(生活の質)の拡大とをバランス良く考えておく必要があると思います。

高齢者の方を見守り、社会復帰のための活躍されている竹野さんのお話は、お体が不自由になられた方々への旅の思いを実現させたい「もっと優しい勉強会」のメンバーにとっては、耳新しく、まだまだ沢山学ばなければならないことがあることを気付かせてくれました。

一体、どこからあのバイタリティーは生れてくるのか、結局私には分らないまま勉強会は終了してしまいました。

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