「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2003年7月 定例会の報告
「大型帆船の冒険で勇気と希望を!」

7月14日(月)19時から2時間、いつもの会場であるJATA会議室で開かれました。
今回のテーマは『ジュビリー・セイリング・トラストの大型帆船で旅に出よう』です。
講師は、ジュビリー・セイリング・トラスト日本代表部、副理事長吉川透氏、理事三上史郎氏、航海士の倉田美和氏です。

英国で王室が支援するジュビリー・セイリング・トラスト(Jubilee Sailing Trust=以下JST)が1978年に創立されました。JSTはロードネルソン号〈Lord Nelson = ネルソン提督〉とティネイシャス号〈Tenacious = 頑固で粘り強い = 不倒不屈〉)の2隻の帆船を運用しています。この帆船に障害者と健常者が共に乗り込みます。帆船の冒険に挑戦する事でお互いの理解が高まります。障害を持つ方々は威厳と自信を取り戻します。このJSTの帆船は障害者の方々が海の冒険を楽しむ為に作られた世界唯一の帆船です。究極のバリアフリーのモデルと最高の国際交流の場となっています。
このロードネルソン号とティネイシャス号には、16歳以上でしたらどのような障害をお持ちの方でも、ご高齢の方でも乗船できます。イジメにあって不登校にになっている子も、引きこもりに悩む青少年もこの帆船の冒険に挑むことで、新しい夢と希望が湧いてきます。私たちは日本からできるだけ多くの方々にこの帆船に乗船していただきたく、航海参加の為の情報提供と支援をしています。又、将来このロードネルソン号とティネイシャス号を日本に招きたいと夢見ています。来航が実現すると2隻の帆船が世界各国をめぐり日本一周をします。
この船を考案したのは英国の教育者クリストファー・ラッド氏(後にケンブリッジ大学教授)です。「体に障害がある人も、航海を楽しみたい気持ちは、健常者と同じだ」と考えた氏は、設計や実験航海に9年を費やし、1986年にロードネルソン号を完成させている。英国王室のヨーク公の後援を受けJST財団が帆走旅行の運営にあたっている。この後援の経緯は、英国王室が基金を元に国民に役に立つことを一般公募した際に、ラッド先生が応募して採用され財団が生れました。応募のきっかけは、「陸の上で元気のない子供たちも、湖(水)の船上では元気になる」ことに気付いたことにありました。
講師の吉川氏は1988年にロードネルソン号の体験航海をされました。その時は日本から車イス利用の女性と妹さん、男性とカメラマンが乗船しました。翌年日本経済新聞に掲載された吉川氏の「“思いやり号”錨を上げて」にその感動が載っています。
この船は3本マスト、400トン50人乗りの帆船だが、ユニークなところは、身体障害者と健常者とが、半々で乗り込めるように設計されていることである。しかもここでは身障者も健常者も対等の立場で、乗組員の1人とみなされる。操船、料理、清掃などの任務を果たさなければならない。記録映画を撮り続けてきた私にとっても、今回の取材の体験は鮮烈な思い出となっている。
そして吉川氏は「この感動を日本のひとりでも多くの人に知ってもらい、乗り込んでもらいたい!」と話されました。このあと、プロモーション・ビデオを流していただきました。最初のビデオは約10分で1988年日本から参加した車イスの女性と男性の航海の模様です。航海の中でかならず行われることのひとつに、メインマストの中段まで全員を引き上げることがあります。車イスの方であっても、目や耳が不自由な方であってもそこまで必ず昇って行きます。ビデオにはその感動映像が写されました。また、両腕の不自由なかたのジャガイモ切りなどの下ごしらえ(全員下ごしらえを順番でしなければならない)や、甲板掃除(デッキ磨き)、食事風景などが生き生きと映し出されました。
2本目のビデオは2001年、兵庫県加古川市の岩崎洋一さんの乗船映像です。岩崎さんは西日本の乙武さんと呼ばれている四肢がご不自由な方です。携帯日英翻訳機を見ながら、「英語が通じるかな、、、」「通じた!!」「何言ってんだかわかんねぇよ、、、」等々、航海の日々の感動が映像から伝わってきます。
船内の設備に沢山の気配りが見られます。ちなみに健常者も同じように募ります。ふだんから身障者の付添いをつとめている人ばかりでなく、休暇を利用して参加する普通のサラリーマンもいます。それに加えて船長以下スタッフ計10名、身障者20名、健常者20名とともに乗り込みます。岩崎さんが洗面台に向かい顔を洗おうとしますがうまくいかず、洗面台の右の30cm程のレバーを上下させると、洗面台が上下され楽に使用できるようになります。
「かがんで顔をあらうの、自分にとってきついんだよね。これいいなぁ!日本へ持って帰りたいなぁ!」。
吉川氏のお話で更に面白い話しとなります。88年、最初に乗船した後に、財団の方々と話し合う機会があり、その中で「日本から参加された車イスの女性が、鏡は高さが変わるのだから、洗面台の高さも変わるといいな」と希望を伝えたそうです。その後に進水したティネイシャス号では洗面台が上下するように改良され、その洗面台を体験した岩崎さんが「日本へ持って帰りたい!」と感動されたのでした。

『船に乗ってみると設備の細かな配慮に驚かされる。車イス用のエレベーターやトイレは言うにおよばず、食堂やデッキの要所要所には、船の揺れが激しくなった時に車イスをしっかり固定できるような止め具が配置されてある。さらにすごいのは操船装置だ。盲人でも耳を頼りに航路を探ることができるオーディオ・コンパス。力の弱い人でも扱える補助動力つきのカジ。車イスの人にも使いやすいよう低い位置に設けられた海図机や羅針盤。耳の悪い人にも届くような視覚を含めた信号システムなど、心配りが行きとどいている。』と吉川氏は日経新聞にその感動を語っています。

『私がお伝えしたいのは設備などのハード面よりも、この帆船に参加した人々の生きざまであり、そうした人々によって船内にかもし出される一種独特な雰囲気の体験です。36歳の全盲の男性は、掃除当番や2、3人組になっての見張り番はもちろん、全員でセールを張る時にも、人一倍熱心に取り組んだ。仲間にまじって黙々とロープを引く表情、掃除の時間に壁を磨く表情、そしてブリッジでオーディオ・コンパスに向かって座り込み、その発信音に耳を傾ける表情。それに並外れた集中力を感じさせる。
非番の時にはデッキにあがってきて、手すりによりかかったまま、何十分も1人きりで風に打たれることで航海を楽しんでいた。その顔には、他人が入り込む余地のないほど、静かな喜びが表れていた。
27歳の車イスの女性、ベロニカ。出港地ベルファストで彼女が岩壁に姿を現した時の光景を忘れられない。両足のない彼女が、家族たちに抱きかかえられて、車のシートから車イスにおろされ、船に乗り込んでいく様子を見て、どうしてこんな体で船に乗ろうとするのか?いやそんな女性を船に一人で乗せようとする家族とは、一体どんな人たちなのか? 正直言ってそう思った。彼女自身も、この時はカメラにさらされることが人一倍恥かしかったようで、ずっとスカーフで顔を隠していた。それがどうだろう。船が走り出して2、3日もすると、スカーフをはぎとった彼女の表情は見る見る明るくなっていった。デッキでセールを張る時の熱意は、まわりの健常者の方がたじろいでしまうほどだった。車イスから飛び出して、デッキの上をはうように移動して行く。3,4メートル先のロープに、にじり寄り、拾い上げる。全体重をかけて転げまわりながら引っ張る。無事に引き終えて結びつけられた時、誇らしげな笑顔がこぼれた。』

日本から参加した25歳の車イスの女性も「彼女の迫力には圧倒された」と告白していました。同じく車イスの48歳の男性は「身障者と健常者が一緒に生活し、一緒に行動できたのが一番よかった」と話していました。

助け合いハンディ克服=健常者が身障者を手助けするのは当たり前として、車イスの男性が眼の見えない男性に声をかけてガイドしてやる。目の見えない人同士では、前に一度乗船した先輩格の者が指を鳴らして後輩の道案内をつとめる。昼間キャビンの片隅で1人ぽつんと点字で日記をつけていた、目の見えない女性が、夜はバーでギターの弾き語りを披露して拍手かっさいを浴びる。そんな光景が船内のそこかしこにある。
人間は助けあって生きていく。この船は地球という乗り物の縮図ではないだろうか。船という運命共同体が、独特の親密な空気をかもしだす。そんな空気が私にはいとおしく、また懐かしく思われる。
航海を終え、帰路立ち寄ったロンドンでこの船の生みの親のラッド氏に会った。彼は「私たちの船にあなたがた日本人が初めて参加してきたように、将来はイギリスと日本の互いの船に、世界中の人が乗り込めるようにしよう。健常者と身障者、年齢の違いだけでなく、人種の違いをも超えて、世界中を帆走するのも不可能ではない」と、われわれを励ましてくれた。いつか、そんな船をつくりたい。
吉川氏がすこし肩を落して話された。日本のマスコミにこの話しをすると、まず、事故がおこったらどうするのだと言ってくる。日本人とイギリス人のDNAの違いであると思うと語られた。イギリスの小学校の授業に『海賊の時間』があるという。その時間は、子供たちが自分の課題を自由に作り、自由な精神をはぐくんでいるのだと話される。JSTの持っている映像に80過ぎた男性がロードネルソンに乗り込んだものがある。その男性は脳梗塞を2回起こしている。その男性に、船に乗って何が楽しいですかと尋ねると、「海の上は自由、これだよ!」と答えられたそうである。
これまでに障害を持っている人10,000人以上が乗船して航海をしており、ひとつも事故がありません。日本のテレビ局の人々には理解ができないようです。このロードネルソン号は3年間試航して完成させた船です。エレベーターで各フロアへアクセスでき、各フロアには段差は一切ありません。また、このJSTの2隻の帆船は横帆と呼ばれる帆船です。縦帆と横帆と2種類あり、横帆の方が航行するにあたって労力がより多く必要な船で、わざわざ人手のかかる設計にしているそうです。40代の平井さんはパラリンピックにも参加している方ですが、「この船に乗って良かった。この船では分け隔てなく扱ってくれた。」と語られたそうです。日本だったら縄で安全地帯を作って、どうぞここでご覧になっていてくださいと言うでしょうとなる。
お話、ビデオの後、いくつかの質問に吉川氏が答えられました。《質問》航路はどのように決められるのですか。《答》ヨーロッパ支部で2年前に協議して決められます。基本的には冬は南へ、夏は北への航海が基本です。できれば航海中にロードネルソン号とティネイシャス号が洋上で巡り合うように航路が組まれます。洋上での巡り合いには皆感動します。大西洋、地中海とヨーロッパ全域をカバーしています。
航海士である倉田美和氏は、帆船についての説明と、帆船を訓練船として使っている理由など、専門的なお話しもいただきました。
吉川氏の「宇宙船『地球号』の気持ち」がいつまでも心に残る講演をいただきました。
日本のNPO、STAJ(セイル・トレーニング・アソシエーション・ジャパン)には海星(かいせい)Ocean Planet と名付けられた帆船があります。帆船のトレーニングと勘違いされる人が多いのですが、帆船体験は人生のトレーニング船と考えてください。

会員も募集しています、と力強く締めくくられました。

【お問い合せ】
特定非営利活動法人 日本セイルトレーニング協会迄
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい2-1-1 メモリアルパークタワーA棟
電話045(680)5222(平日9:30~18:00) Fax 045(680)5221 e-mail:office@staj.org
ホームページ URL:http://www.staj.org/

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