「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2002年3月 定例会の報告

3月の勉強会 3月の勉強会はJTB本社でイントラネット関係のお仕事担当されている、相良啓子さんをお招きして聴覚障害の理解と旅行について」のお話を伺いました。相良さんご自身も中途で聴覚障害者になられました。相良さんの経験されたお話も交え、聴覚障害者の基礎知識と旅行にまつわる幅広いお話でした。手話を交えながら、ハッキリとした声が印象的でした。3月26日(火)参加者は30名でした。

相良さんのお話

私は耳が聞こえず、自分の声がうまくフィードバックできないので、向こうまで声がきちんと届いているのか確認できないのですが、今、後ろまできちんと届いておりますか?
大丈夫?ありがとうございます。今日はできるだけ自分の声でお話して行きたいと思います。(傍らに手話通訳の方が控えておられました)
現在、会社では、Web管理に関わる仕事を主に担当しておりますが、耳が聞こえないお客様からの旅行企画依頼が届いた場合に、支店とのパイプ役を行ったり、実際に自分がサブ添乗員として海外へ出かけることもあります。
始めに自己紹介も兼ねながら、「聴覚障害とは何か?」についてお話させて頂きます。私は山形女子短大在学中に、おたふく風邪が原因で聴力を失いました。
当時は、ショックも受け、いろいろと悩んだ時期もあったのですが、同じ聴覚障害者との出会い等を通して、少しずつ立ち直りました。その後、アメリカ留学の経験も積んで、今の仕事に就きました。聴力レベルは100デシベルでほとんど聞こえません。自分が聞こえなくなるまでは、聞こえない知り合いもいませんでしたし、当然のことながら手話も知りませんでした。いろいろな経験を積んだ今では、---聞こなくなって良い体験をした。不便ではあるけれどそれほど悪いことでもない・・・と思っています。
さて、聴覚障害には、失聴時期によって異なる「先天性聴覚障害」と「後天性聴覚障害」があります。生まれた時から聞こえないと「日本語(音声言語)の獲得」が出来にくくなります。そのため、大変な訓練を通して、日本語獲得をしなければなりません。私の場合は、日本語を獲得した後失聴しましたので、耳は聞こえなくとも、ことばは覚えているわけです。障害の部位による分類を行うと主に「感音性難聴」と「伝音性難聴」に分けられます。「感音性難聴」は、補聴器をつけることによって、音を大きくして聞くことはできますが、内耳の障害のため音がゆがんで聞こえるので、ことばとして耳に入ってきません。「伝音性難聴」は、内耳は健全ですので、補聴器を使用し音を大きくすることによって、ことばとして聞き取ることができます。私の場合は、感音性難聴で、ろう学校に入ってくる子ども達も感音性難聴が多いと思います。
聞こえない人とのコミュニケーション方法にはどんな方法があるでしょう?
そうです、筆談、手話、口話、身振り、空書、などがあります。空書をお願いすると、相手に向かってわかるように左右を書き換えて書いてくださる方がおりますが、普通に書いていただければ、読み取れます。殆どの日本の聾学校では手話を教えていませんが、最近ではいくつかのろう学校で幼稚部から手話導入も考えるようになり、手話の再認識がされています。ただ、すべての聞こえない人が手話を理解できる、という認識は間違いであり、手話を使用しない聴覚障害者も沢山います。実は、私自身もはじめは手話を受け入れられませんでした。手話を受け入れるまで時間が必要でした。聴覚障害は外見では分からないこともあり、自分自身の障害受容、家族の、そして社会の障害受容が大切だと感じます。
次に、聴覚障害者の旅行について、話を進めていきます。聴覚障害を持つ人の旅行ですが、「移動」という面からは問題はありません。しかし、例えば、電車が事故で止まったような時には放送はきこえないので、いつ頃復旧するのか、また代行手段などが分からず、周囲の人を真似て動いたり、隣の人にメモを書いて教えてもらう必要があります。お願いしても無視されることもありますので、段々この人なら教えてもらえそう・・というような「見る目」も磨かれてきます。(笑)バスも大変です。次の停留所名が表示されるバスはまだまだ少なく、窓から賢明にバス停の名前を見て降りるバス停を確認します。ずっと緊張していて旅を楽しむことが出来ません。
それから、旅館などでは電話のサービスが使えないので、お茶が飲みたい時でもわざわざフロントまで行かなければならないこともあります。健聴者には、モーニングコールサービスがありますが、聴覚障害者は使用できないので、振動式のアラーム機能がついた目覚し時計を持って行きます。海外旅行に行く場合、レンタルスーツケースを借りたくても、 FAX番号が書かれていなくて、思うようにサービスが利用できない、ということもあります。
それから、スーツケースを空港まで宅配するサービスを使用すると、宅配される時間は、「午前、午後」の2通りしか選択できず、特に一人暮らしの場合、宅配担当の方が家に来るまでじっと待つことになります。家には、お知らせランプがありますが、音のお知らせと違って角度制限があります。後ろ向きだったり別の部屋にいると気付かず、家にいるのに「留守」だと思われてしまいます。そうすると、トイレに行くにも落ち着かず、長い時間緊張していなくてはなりません。家に来る少し前にFAXを暮れるサービスがあると便利だと思います。
不便なことはいろいろとありますが、それでも聴覚障害者の中には旅行が大好きな人が多いです。家族が聞こえる人ばかりで、家の中でもコミュニケーション面での「孤独感」を抱いてしまうこともありますが、旅に出ることによって、そういった日常のストレスなど発散でき、美しい景色をみたり、新しいことを体験することによって元気もわいてくるものです。
話は変わりますが、過去2回、サブ添乗員としてアメリカへ同行させていただきました。聞こえない学生さん20人の視察ツアーで、自分にはコミュニケーションサポートとしての役割がありました。本来の添乗員は手話が出来ませんので、添乗員が話すことを私が手話を入れてお客様に説明するというわけです。米国では、ろう者が多く学ぶ大学の視察、交流などを行いました。
アメリカの大学では聞こえない学生にもきちんと情報が保障されています。観光で訪れたユニバーサルスタジオでは、事前に連絡をしておくと、手話通訳者を派遣してくれました。今年は北欧に行ってきました。往復はスカンジナビア航空を利用しましたが、ゲートでは手話での挨拶があり、優先搭乗でした。機内サービス(何時ごろ飲み物が配られるかなど)も紙の書いた物が用意され大変助かりました。この旅行では私のほかに手話通訳を2人付ました。いつも通訳者が私のそばにいることで、[聞こえない」という障害は感じられなくなりました。しかし、通訳の問題については、考えなければならないことが沢山あります。通訳謝礼、長時間の通訳を少人数で行うことの苦痛、バスの中で後ろ向きで立ったまま通訳をすることの危険性、通訳によって伝達されるガイドの話すことを理解することと、建物を見るタイミングのずれを調節することの困難さなどです。
さて、聞こえない人達、ろう教育者の中では、北欧が注目されています。中でも、1981年のスウェーデン議会で、「手話が聞こえない人の第一言語である」と承認されたことが注目されています。幼い時に手話を完全に身に付け概念を育て、その上で読み書きの言葉も習得します。手話を言語として認めている北欧では、小学頃から手話文法も学習しています。そのような教育方法が日本とは全く異なっているので、視察研修を希望し、北欧の教育に興味をもつ人が増えています。
今回の学生さんたちの旅行も、北欧の福祉面がどのように進んでいるのか実際に見に行きたい、北欧のろう者と交流をしたいという目的のもとで旅行を企画しました。
日本の手話とスウェーデンの手話は違いますが、数分も交流していくうちにどんどんお互いの言いたいことがわかるようになっていきます、これは、手話という視覚言語の大きな力、魅力でもあると思います。また学生寮にも何日か滞在しましたが、聞こえない人への配慮がよくできていました。来訪者がチャイムを鳴らすとランプがともりますが、ランプの光が強く、その方向をみていなくても分かるようになっていました。訪問者がチャイムを鳴らすと、同時にベッドもゆれるので、朝早くても、嫌でもおきなければなりません。(笑)
スウェーデンには、ユーゴスラビア、タイ、イラクから来ている留学生も加わり、おりがみ・ケン玉等を通じて楽しい時を持ちました。出発前までは、始めて海外に行く学生さんなど、心配されていた方も多かったのですが、メーリングリストを使い、心配なことは全員で共有しながら情報交換をしっかり行いました。帰国すると「まるで生き方が変わったようだ」と、アンケートに記入してくれた学生さんもいました。旅行をすることの意味がこういうことにあるのかな、とも感じられました。

アメリカと北欧の旅行のビデオ放映(15分)
印象的だったのは各国の人々と生き生きと交流する参加者でした。

話が変わりまして、昨年高齢の聴覚障害者の方に行ったアンケートがありますので、その回答例をいくつかご紹介したいと思います。

  1. 旅行に行って楽しかったこと。
    ・添乗員が親切だった。・海外では聞こえないことが平気。Etc
  2. 困ったこと
    ・一般ツアーでは説明が分からない。・同じツアーの人と話が出来ない。・食事のオーダー。
  3. 旅行する時に気を付けていること
    ・集合時間。・非常口の確認
  4. 旅行会社へ
    ・行く前の説明が伝わってない。・情報保証をして欲しい。(手話通訳、要約筆 記)

以上です。

最後にこれから私がやりたいと思っていることは、聴覚障害の中学高校生に対する交流プランです(ホームステイ・異文化体験)ですが、少しずつ全世界に広がる聴覚障害者ネットワークも構築していけたら、と考えています。

質疑応答

Q:聾文化について卒論を書きたいのですが、「ろう文化」についての意見を聞きたい。

A:私は中途失聴で、第一言語が「日本語」なので、母語を手話とする「ろう者」ともまた異なっています。ですので、私の立場から「ろう文化」を語りきれないこともあります。手話には「日本手話」と「日本語対応手話」の2種類があります。「日本手話」は日本語とは全く文法が異なっています。日本は単一文化なのでマイノリチィーの文化を受け入れることがなかなか難しいように思いますが、ろう文化の理解がなされていくことを望んでいます。

Q:英語手話から日本語手話に直接通訳できる人、や国際手話ができる人は何人ぐらいいますか?

A:多くはないです。国際間の手話通訳でもっとも多いのは、アメリカ手話通訳だと思いますが、通訳できるレベルとなりますと、4、5人といったところでしょうか。国際手話(各国共通)がありますが、手話はその地方の文化に促しているのであまり広がりません。現在、国際手話通訳の資格をもっている方が日本に1人いるようです。相良さんありがとうございました。

もっと優しい旅への勉強会、会報担当 木村(文珠川朋子)

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