「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

2001年9月 定例会の報告
高齢者など「聞こえ」に障害をもつ方の旅

9月の「もっと優しい旅への勉強会」は当会の会員で3月まで会報を担当していた 村上昌則さんに「高齢者など聞こえに障害をもつ方の旅」というテーマでお話をしていただきました。
9月19日(水)午後7時過ぎよりJATAの会議室にて参加者は16名でした。

村上さんのお話

私は聞こえない人との付き合いはかれこれ20年にもなります。現在はサラリーマン生活を終えて所沢手話サークルの夜の部代表のほか埼玉県手話サークル連絡協議会県西ブロック・埼玉県手話通訳問題研究会の各運営委員を務めております。

聞こえない人達は、手話が使える世界では素晴らしい能力を発揮していて、障害者とは言えません。しかし手話のわからない人に対しても身振り手振りで意思を伝えようとする意欲と技術を持っています。いわば聞こえないことのプロといえます。今日お話する老人性難聴の人たちはそういう意味ではまったくの素人。この人たちとうまくコミュニケーションできれば、旅行業界にとって大変大きな市場があるのです。

「聞こえないということ」の大変さを理解しているつもりの健聴者(聞こえに障害を持たない人)が多いようですが、現実にはまるでわかっていないほうが普通です。

聞こえないという障害は障害者手帳を所持している数字を元にすると我が国では約37,8万人、大体人口の0.3%です。大別すると①先天性ろう(言葉を知らないうちに失聴) ②難聴 ③中途失聴(言葉を覚えてから) などに分けられます。

そして聞こえないことの不自由さは、・自動車のクラクションが聞こえないなどの安全性が損なわれる、・医者などで名前が呼ばれても気がつかないので待たされる、・呼んでも振り向かないなどで誤解される、などは知られていることですが本当に大変なのは・社会の動きに取り残され、孤立してしまうことなのです。私達手話を学ぶものは雑談をする時、一人でも聞こえない人がいる場合手話を使います。その人が今周囲でどんな話がされているか分るようにするのです。

例えばこんな話も有りました。大変相撲好きで、相撲のことなら何でも知っていると思われていた、聞こえない人が昔の横綱「北の湖」(きたのうみ)を「きたのこ」と呼んでいたりして面目を失ってしまいました。また「あゆ」といえば人気歌手の「浜崎あゆみ」の愛称ですが知らないために当たりまえの話題についていけないのです。聞こえないということはなんでもないような常識についていけないため世の中の動きに取り残されて社会から脱落してしまうのです。

そして年とともに聞こえが悪くなる「老人性難聴」は高齢化社会の到来で急増しています。この老人性難聴は、昔なら「ご隠居さんも最近耳が遠くなった」と片づけられていたのですが、最近ではまだまだ社会の一線で活動している人も多いのでそれが社会とのつながりを失うきっかけになってしまうのです。

高齢者の難聴の場合、・医者に受診しない、・難聴の自覚が遅い、・認めたがらない、・あきらめやすい、・補聴器に馴染みにくい、・日常生活で消極的になり易い、・会話不足になり家族から孤立、・社会から引きこもってしまう結果痴呆になり易い、等の特徴があげられます。しかも介護保険では障害が評価されないケースも多いのです。

「聞こえ」はほかの健康状態とはまったく関係していません。だれでもなりえます。

こうして今後の高齢化社会の中で急増する中途失調者の大群にコミュニケーションを確保してもらうには、従来の聴覚障害者の多彩なコミュニケーションの取り方に学ぶものが多々あります。

例えば文字コミュニケーションでは筆談・空書き(空中に指で文字を書く)ノートテイク・要約筆記・FAX・電子メール・携帯電話・iモード(若い人に大流行)等が有ります。

加えて身振り手振りも手話・指文字・空書きなどいろいろです。聞こえない人たちは身振り手振りで非常に豊かな表現をしています。はっきり言って高齢者に正式の手話を覚えてもらうことは困難です。しかし家の中で見た目で分るような我が家のホームサインを使ってみたらどうでしょう。家族とのコミュニケーションが「用事のある時だけ」では取り残されてしまいます。

こうした老人性難聴の方は、実はある程度時間とお金に余裕が有り、家族の中で孤立しやすいので外出、旅行に楽しみを求めていて大きなマーケットになりえます。

例えば添乗員やガイドの人が身振り手振りが豊かで聞こえないことが苦にならないとしたら旅行が本当に楽しめるでしょう。

団体旅行の場合はゆったりとしたスケジュールにしましょう。自由時間、集合時間は視覚に訴える方法でホワイトボード等を利用します。参加者はプライドが高いので「聞こえた振り」をすることも有ります。バス旅行では出口で再確認することも必要です。何かに気をとられて集合時間に遅れる人は呼んでも聞こえません。その時は肩を叩けるところまで行く覚悟が必要です。その時間も織り込んだ日程が必要です。食事や入浴方法もわかりやすいサインや、メモボードを利用した方が良いでしょう。

しかし旅行の契約など金銭に関わることは筆談を交えて誤解のないようにし、あいまいな表現でのコミュニケーションは避けるようにします。

ここで村上さんから旅の各シーンにおけるホームサインの提案が有りました。「見ればわかる。」「覚えてもらえる」簡単な身振りです。手話の単語そのままや、かなり近いものが有りました。また一般的には手話よりもわかりやすい身振りも有りました。

  • ツアーガイド編 ・集合・解散・までに・買い物
  • 緊急対処編 ・お願い・こっちへ来て・病気・元気・助けて・火事
  • 相談編 ・受付・窓口・お金・同伴

旅行参加者にも覚えてもらえば円滑に旅行が進むと思います。

質疑応答

Q:バス旅行でのガイドの説明の手話通訳はした方が良いのか?また参加者は望んでいるのか。

A:重要な所だけで良いのではないだろうか。観光地で資料館のスライドを見たが、館内が暗くて手話通訳が見えなかった。バスに戻ってから要約して説明したところ、大変喜ばれたことが有る。

Q:ホームサインの研究は何処まで進んでいますか。

A:私が('村上)が始めたばかりです。これから普及させたいと思います。

Q:聞こえない人と一緒に旅行した時に夜中に荷物の整理をしてビニール袋の「カシャカシャ」音に悩まされたことが有りますが、当人に注意した方が良いのか迷っている。

A:これは「自己発生音」といいます。例えばスリッパ歩行でのパタパタ音、ビニール袋ガサガサ音など、です。最近では自己発生音を測定して数値化する装置も有るのですが。

この件にまつわる話など。―――聞こえない人が利用しているホテルの部屋からテレビの大音響がきこえて、注意の方法がなく困ったことが有るなど。その時にはドアの下からメモを入れて注意した。

A:お互いに信頼関係が有れば注意が出来ると思う。聞こえない人と同室になるには、そのくらいの覚悟が必要かもしれない。

Q:宿泊先での緊急時の連絡方法などは?

A:合図くん(ドアのノックを振動で伝える)やパトランプで知らせる。何も方法がなければドアの隙間から紐をひくとかの方法も考える。

Q:聞こえない人とコミニュケーションする時に、口を大きく開けたり、筆談をすることは失礼にならないか。

A:決して失礼ではない。老人性難聴の場合プライドが高いので聞こえた振りをすることがある。聞こえないことに理解を示すことが大切だと思う。

このあと参加者から航空機に搭乗する聞こえない人達の為に「脱出」等書いた扇子を用意して緊急時の連絡に備えた乗務員の話なども紹介されました。

紙面には紹介しきれませんでしたが、その他にも手話の歴史や、読話(口の動きを見て言葉を理解する)の難しさなど興味深いお話がたくさんありました。

村上さんありがとうございました。

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