「もっと優しい旅への勉強会」定例会報告

1994年4月 定例会の報告

講師:

PartⅠ:草薙 威一郎(もっと優しい旅への勉強会代表)

PartⅡ:田中 清一氏(手話通訳派遣協会事務長)

日時:1994年4月20日(水)19時15分~21時30分

会場:JTB本社3階プレゼンテーションルーム

参加者:73名

PartⅠ:「旅行環境の変化と勉強会の活動」

草薙 威一郎(もっと優しい旅への勉強会代表)

●全ての人に旅のよろこびを

最初に、イギリスの"HOLIDAY CARE SERVICE"という障害をもつ人の旅行支援団体が、新しく提唱しているマークをご紹介したいと思います。このマークは、宿泊施設などに掲示するものですが、ここに『TOURISM FOR ALL』という言葉がかいてあります。この『ALL』には、「例外なく、可能なかぎり、全ての人に」という意味があります。日本語では、「可能なかぎり」と言った場合でも、ほとんど検討がない場合もあります。しかし、デンマーク等では、本当に可能な限り対処する、普通のスプーンが使えなければ、使えるようなスプーンを可能なかぎり開発するという努力を真剣に行います。

最近、多様化というのが進んでいますが、無駄な付帯機能をつけるといった多様化を行うのではなく、しなくてはいけないぎりぎりのところはで多様化し、例外なく全ての人に対応することが、必要だと思います。

●これまで、社会は十分に考えてこなかった

現在、建設省では、建築基準の見直しを行っています。この中で「誰でも使えるような建築」というテーマがありまして、建築審議会の「高齢社会の到来及び障害者の社会参加の増進に配慮した優良な建築物の在り方に関する答申」の中で述べられていますので、ご紹介したいと思います。

●高齢者・障害者対応の必要性と基本理念

我が国においては、長寿化と出産率の低下のため21世紀の初頭には、既に高齢化の進展している西欧先進諸国の水準を凌ぐ本格的な高齢社会が到来し、西暦2020年には第二次世界大戦後のベビーブーム世代の高齢化により国民の4人に1人が65歳以上の高齢者となることが予測されており、運動や知覚機能が低下し、又はこれらに障害をもつ者の割合が増加するものと見込まれている。
その一方で、戦後数十年にわたって高度経済成長、人口増加を続けてきた我が国においては、その社会のシステム及び国民の意識において、高齢者、障害者、さらには、一時的に負傷した者、妊産婦等の運動機能等に一定の制約を有する人々を社会の主な構成員として受入れ、共生するという意識が十分に成熟されてこなかった。
このことは、我が国が、高齢者・障害者等が主体性・自立性を確保しつつ日常の社会活動に積極的に参加し、その能力が十分に発揮される社会への移行の時期を迎えつつあることを意味している。とりわけ、本格的高齢社会の到来を間近に控え、将来における投資余力の減収が指摘される現在、この移行のための対策に着手することは緊急の課題である。
この新たな社会への移行が円滑に行われるためには、従来の社会構造、行政施策、そして人々の意識自体を、高齢者・障害者等が常に参加することを前提としたものへと改めていく必要がある。
とりわけ行政施策の分野においては、だれもが必然的に老いを迎え、障害をもつ可能性を有するという基本的考え方に立って、高齢者・障害者等を例外的弱者としてとらえ、特別な措置を実施するするのではなく、社会全体を通じて、従来の高齢者・障害者等の利用を想定せずに講じられていた措置全般にわたって高齢者・障害者等への配慮が自然に組み込まれていくようにする等、すべての国民が一生を通じ豊かな生活をおくることができるような施策体系の確立に向けて積極的に取り組んでいくことが必要である。
以上の考え方は、今般制定された障害者基本法の精神でもあり、昭和61年6月に閣議決定された「長寿社会対策大網」や平成5年3月に内閣総理大臣を長とする障害者対策本部によって決定された「障害者対策に関する新長期計画」においても共有されている。

●これからのプログラムづくりとノーマライゼーションの理念

昨年末に、「障害者基本法」が制定されました。この中では、「障害者」の対象をひろげたところが、一番に挙げられます。その他に、障害者の自立と社会参加を促進するための国としての基本理念をつくる、計画プログラムをつくる、また、それについての年次報告を義務付けるなどが、特色として上げられると思います。また、県市町村レベルにも計画の策定を求め、行政分野から民間分野までに努力義務が課せられています。これらは、社会連帯の理念にもとづくという、考え方の変化によると思います。
東京都でも、「福祉のまちづくり条令」の施行を来年4月を目途に準備していますが、全国では、兵庫県、大阪府、山梨県で施行され、20以上の都府県で検討されている段階です。

●なぜ今、障害者の旅行が注目されているのか

今、障害をもつ人が豊かな生活を行うということが注目されています。先般実施された、障害をもつ人の余暇に関する調査でも、一番してみたいのが、海外旅行であり、国内旅行も含めて、旅行に対する希望が圧倒的に多くなっています。これには、誰でも旅行が出来るような社会環境の整備が必要です。

また、社会的な価値観の変化も挙げられると思います。バブル経済の崩壊前の物の豊かさを求める風潮から心の豊かさを求める様になってきていると思います。
旅行に行ったことによる効果、本人の変化が「ソーシャルリハビリテーション」として、注目され、社会を学ぶ機会として捉えられていると思います。

●どんな人が、どのように旅行しているのか

障害をもつ人が、どの程度旅行しているかという、公式なデーターはほとんどありませんので、飛行機の国内線割引運賃利用、JR東京駅の対応記録、東京ディズニーランドの車いすの貸出等の記録から推定するしかありません。
営団地下鉄の大手町の利用状況だけを見ると、1日当たり数十万人の利用者の中で車いすの人は、10人程度という資料があります。地下鉄は、公共交通機関ですが、この「公共的」というのは、どの程度の利用率から定義されるのでしょうか。新しくできた都営12号線では、1/5000人の利用率だそうですが、1/1000人程度が公共的だと提唱する大学の先生がいます。車いすを利用する人で、公共機関を利用して通勤・通学している人は、ほんのわずかだとおもいます。
低床式の路線バスは全国で42000台程度走っているそうですが、リフト付路線バスは、最近増えているといっても、まだ100両以下の現状です。リフト付観光バスに関しては、まだほんのすこしという状況です。長距離バスも電動車いすではほとんど使えません。
鉄道においては、新幹線は使いやすいが、在来線は使いにくいという状況ですが、もともと車いすの人が乗るということが、想定されていない夜行寝台列車などは利用実績がないようで、車いすを置く場所すらないという状況です。
この様な現状を見ますと、実際にどうやって旅行しているかよくわからない。しかし、日本観光協会が実施したアンケートでは、年間1回以上の旅行をしているという回答が6割の人からありました。アンケートと実際の落差が大きいと思います。
旅行の実施形態については、各種団体の旅行への参加や、旅行会社の障害をもつ人向けのパッケージ旅行(数はまだ少ないです)、普通のパッケージ旅行に参加(数が増加しているが、問題も増えている)、個人で計画する旅行などが上げられます。
普通のパッケージ旅行に参加することに対する問題点は、今の、パッケージ旅行そのものが、健康な人が忙しく旅行するように企画されているため、障害をもった人がいると、スケジュールどおりにいかなくなる場合があり、どう対処したらいいのかわからない。旅行会社も配慮を必要とする人が参加した時にどうするか考えなくてはならないと思います。
外国の障害をもった方々は、自分たちでゆっくり個人旅行をする例が多いようです。

●旅行の問題点とは何だろう

旅行をするうえでの問題点とは、施設のハード面の整備が一番に上げられますが、行った先での楽しみ方などもあると思います。
施設の問題点は、作る人・設計する人の最初の考え方で違ってくると思います。一旦作ってしまった物を、あとで直すのは大変な労力です。また、せっかくある施設でも、使い方がわからなければ意味がないと思います。横浜のランドマークタワーができたばかりのころ、車いす対応エスカレーターの操作方法がわからないで、1時間近く待ったという例もあります。
旅行情報の面も大きいとおもいます。現状では、どこで聞いたらよいのかわからないし、社会福祉協議会などでも、自分の町しかわからないという状況です。

●これからの具体的な目標づくり

これから考えなければいけないと思うことは、「交通アクセス法」の新設が必要だと思います。現在では、ガイドライン等は作られていますが、旅行の中の移動として考えるならば全国的な統一基準が必要だと思います。
施設を整備する上では、その資金をどうするか、だれが払うか。直接的な受益者、利用者全体、税金、事業者などが考えられると思います。例えば、身障者割引制度は、現在は事業者の負担となっていますが、諸外国では行政が差額を補助してところもあります。
現在、駅の改装には、低利融資制度が設けられ、駅にエレベーターを設ける場合は、(財)交通アメニティ推進機構から補助が受けられます。この財源には5年間で100億円が用意されることになっていますが、具体的にどの程度の数の駅に設けられるかは、わからないところがあります。やはり、具体的な目標(プログラム)を作らなければならないと思います。
障害をもった人が旅行する際には、やはり人的な負担も大きくなりますので、これらを援助する「旅行ヘルパー制度」みたいなものが必要だと思います。これらは、国内的なネットワークだけでなく、国際的ネットワークが必要だと思います。

●もっと優しい旅への勉強会の方向性

この勉強会は3年前の4月に10人ほどの人から始まり、参加する方が増えてきて、今日につづいています。今年2月には、シンポジウムを開催するまでにいたりました。今期から、運営委員会を設けて、この会の運営を行うことになりました。
各地にも類似の団体が設立されてきていますので、国内のネットワークを作っていきたいと思いますし、国際的にも交流ができればと考えています。
第2回シンポジウムの開催の要望も寄せられていますので、規模の小さいものの可能性も考えて見たいと思います。また、定例勉強会のように話を聞くだけでなく、参加者同志の意見交換の場も設けてみたいと思います。

PartⅡ:「聴覚障害の特徴と旅行について」

田中 清一氏(手話通訳派遣協会事務長)

学生時代に、筋ジストロフィーの方々と交流をしたのが、障害をもった方とのおつきあいする始まりでした。東京の筋ジストロフィーの方と、年に1回、夏期に旅行をしましたが、当時は観光バスに車いすが積めなくて、バスの他に、トラックに車いすを積んで、運びました。現在は、バスが大きくなってトランクに入るようになったので、良くなったものだと思います。筋ジストロフィーの方は、夜に寝返りの介助が必要なため、家族の方だけで旅行をするのが大変ですので、この旅行を楽しみにされていました。

 1970年ごろに、厚生省が仙台市を福祉の街のモデル事業に指定したので、みんなで見に行ったことがありますが、仙台駅では、たしかに改札は広い、しかしその先に、階段があって出られない。車いすトイレは設置されているのだが、鍵がかかっている。鍵を開けるには、階段の上の駅長室まで行かなければならないなど、ちぐはぐな面がたくさんありました。福祉の町と言って、車いすのため=段差を削ることが目的になってしまって、段差の前に溝があっても埋めない。結果的に車いすの人が利用できなくなってしまう。車いすを使っている人たちだけでなく、みんなが使える町が住みやすいと思いますが、様々な人達がいるということを忘れてしまっていると思います。

障害をもった人たちを参加させてあげることではなく、決定の場への参加がなくてはいけないと思います。たとえば、今の紙幣には目の不自由な人向けにマークが入っていますが、人から渡される時にお札の向きがそろっていなければ、マークの位置を探すことから始めるという手間がかかります。結局、お札の識別道具が作られました。前のお札の時は、大きさで簡単に判断できたので、こんなものが必要なかった。新しいお札を作る決定の場へ視覚障害の人が参加しなかった結果だとおもいます。

このように、当事者外の人の勝手な判断でなく、当事者の参加が必要ですが、聴覚障害は、決定する場でのコミニュケーションに障害があるという特徴があります。

余談ですが、聴覚障害の方とヨーロッパへ旅行に行った時に、手話通訳が必要なのは、ガイドの方が日本語を話す時だけです。海外では、聞こえないということに対して、適切な対応や工夫がとられるので、国内旅行より海外旅行の方が楽だといわれます。国内では、聞こえないこと=とんでもないという認識があります。東京都の障害者保護施設においても、聴覚障害者だけでは受け入れない場合があります。国内では、聴覚障害が理解されておらず、どのようにコミニュケーションをとっていいか知らない場合が多いと思います。

聞こえない障害においては、2次的な障害である日本語の獲得が困難ということが一番理解されておりません。言語の獲得は、まねて覚えるということから始まりますが、聴覚の先天性障害や幼児性障害では、これが難しいのです。

一般に日本人は日本語がわかるという前提(思い込み)があります。例えば、電車が不通で、駅員に筆談で質問しても、駅員は筆談で「先ほどから放送している」という答えが戻ってきたという話があります。

日本語と日本手話は、同じ文化圏で生まれたので、共通なところもありますが、基本的に違う言語だという理解をしていただききたいと思います。たとえば、会社で、使いを頼んだ上司のメモに「道草を食うな」と書いてあり、聴覚障害の部下が「私は牛ではない」と怒ったという話があります。日本語は自由な言語ですが、言語はそれぞれのルールがあります。日本語は起承転結で構成されていて、何を言いたいかを一番最後にもってくる、また、言いにくいことは、難しく言い回すなどがあります。耳の聞こえない人は、起承転結のルールで学習していますので、2重否定やあいまいな表現は理解しにくいということがあります。また、日本語の独特なルールとして、「才女」というが「才男」とは言わない。「女医」というが「男医」とはいわないなどがあります。また、日本人は日本語がわかってあたりまえという押しつけもあります。そこから、わからないと能力が低いという勝手な判断も生まれてきます。

聞こえないということの理解をしていただきたいと思いますが、ストレートに物事を言ったら失礼なのは、聞こえる人のルールであり、聞こえない人へは、要点は明確に伝えてほしいと思います。聞こえないということは、理解力が低いわけではありません。手話で伝えられれば、理解ができます。コミニュケーションに占める言語の重要度は45%ぐらいと言われています。言葉を無理やり伝達するのがコミニュケーションではありません。

ウイーンにある聴覚障害者の団体には、世界中から聞こえない方が集まってきますが、お互いの母国語が判らなくても、コミニュケーションが成立しています。

聞こえない事に対して、身構えるのではなく、にこっとわらってほしいと思います。自分を向いてコミュニケーションをとろうとしてくれているかが、聞こえない人たちが快適に暮らす重要なポイントになると思います。そして決定の場へ参加することが必要です。

手話の学習を一人でも多くの人にしていただきたいのですが、手話がわからなくても、「ご用件は手紙に書いてください」という、聞こえないことをわかってくれる姿勢をとっていただきたいと思います。

質疑応答

Q:中途障害で手話に対応できない方の割合はどの程度ですか?

A:実態は不明です。18以上で40万弱の聴覚障害の人がいます。難聴・中途失調の方で、手話を覚える人が増えています。 Q:障害によって手話ができない場合、筆談を利用するが、その場合の注意事項は?

A:やたらと仮名書きしないで、一般的な漢字は使ってください。口話も有効です。

Q:お札の識別道具はどこで売っていますか?

A:わからない

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